【六十分間の■■■■■■■】🐔🐔
ゴゥン、ゴゥン。
スイッチを押して、近くの椅子に腰をかけ足を組む。
ランドリーで回る自分の服を眺めながら、頭の中で回る思考は『人間失格テスト』のことだった。
空っぽの頭で、ただただこの時間を待つことができればよかったのに。張りつめた緊張感がどうしてもそれを許さない。
「明るく前向きに、いたいんだけどな。一人になるとどうにも難しいみたいだ」
笑ってばかりじゃいられない。
何よりもみんなのことが心配だった。
今日中に何か起きることはきっと、ほぼほぼ確定なんだろう。どうにか回避することが出来たらと考えを巡らせているが、掴めないのだ、何も。
こんな時こそ、きっとなんとかなる、大丈夫だって自分を鼓舞することができたらよかった。
弱気になるなんて僕らしくないなと、天井を仰いで、目元を覆った。
一度考え始めてしまうと<思考>が止まらなくなるのだ。"最善"を考える時も、そして………"最悪"を考える時も。
ずっと後者を考えないようにしていた。でもいざタイムリミットが迫ってくれば、嫌な予感はずっと傍らにつきまとう。
過ぎていく一分一秒が、こんなに怖く感じるなんて思わなかった。
「ミオ、ミヤ……」
二人の名前が口から零れてしまう。
おそらく彼らの間で『何か』があった。そしてその『何か』は学級裁判へと続いているのでは、ないか。
あまりに情報は少ない。けれど、一番引っかかっていた違和感だった。
……どうか、当たらないでほしい。彼らと一緒にいたバミに後で聞いてみよう、そう思いながら端末をきゅっと握った。
「キミたちを守るために、僕には何ができるんだ……?」
犯人捜しなんてしたくない。
殺人が起きたとして、誰かを責めたくはない。できることなら、その誰かと同じ目線で話を聞きたい。
瞼が震える、唇を噛む。
誰かをひとりぼっちに、させたくない。
「……はは、過去の僕が、人を殺すために格闘術を磨いていたんだったら、僕が『犯人』に最適解だと思うんだけど。今からでもダメかな、」
「代わっちゃダメかな。怒られそうだけどさ、僕はその『誰か』にだって生きてほしい。処刑なんて……僕は、」
「みんなよりずっと、暗殺者が板についてるんだよ。僕の方がさ」
「追加された校則があるのも、ルールを破る訳にはいかないのも、そんなことちゃんと分かってるんだ。だけど、………」
「だって………だれかがしぬのは、いやだよ……………」
ぽろぽろと言葉が零れ落ちてくる。誰にも言えないままでいる弱音、本音が堰を切ったように。
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胸の中を渦巻くどうしようもない悔しさと寂しさに飲まれそうな時だった。
聞き慣れた下駄の音と、緑髪の彼が自分を呼ぶ声が聞こえたのは。
ゴゥン、ゴゥン。
……ランドリーが終わるまで、あと十分を切っていた。
「六十分間の思考ランドリー」
緧鷲見 チトリ