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    萩乃**はぎの

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    萩乃**はぎの

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    『天城燐音誕生祭2021』

    ##あんスタ

    『シナモン』の店内は、今日はHiMERUたちCrazy:Bの貸し切りだ。
    Crazy:Bの結成──と呼べるのかどうかはわからないが──から1年が経った。
    今日は仮にもリーダー、天城燐音の誕生日。

    *  *  *

    「仮にもってなんやねん。いや、それはわしもそう思うてるけどな?」
    「あの男の素行を見ていると、とてもリーダーだとは思えませんからね。本来ならばHiMERUの風上に立つ人間ではありません」
    「そんなこと言って~、HiMERUくんもなんだかんだこのパン美味しい!」

    買ってきたパンに夢中になっている椎名から視線を外し、HiMERUは物憂げなため息をひとつ。

    「椎名、食べるか喋るかどちらかにしてください」
    「ひゃ~い」

    桜河が背もたれに寄りかかり、腕を頭の上で組むと椅子を鳴らした。

    「こんなダラダラしとってええんか? 燐音はんに贈りモンするんなら今日やろ。早う決めんと、モノ買うんにも店閉まるで」

    HiMERUは優雅にコーヒーを一口。
    ここ『シナモン』のコーヒーは文句なく美味だ。
    椎名はこれで、舌だけは確かなのだと改めて思う。

    「桜河の言う通りです。話を進めましょう。まず、食事は椎名が作ってくれると。食材については事前に金銭を渡しており、椎名はすでに調達を済ませています」

    椎名が片手を上げてぶんぶんと振る。
    口の端にパンの食べかすがついているのが非常に気になるが。

    「やっときました~♪ ご褒美にあのパン屋さんの新商品買ってきてくれるなんて、HiMERUくんは本当に太っ腹~! 僕、涙出そう」
    「誰が太い腹ですか?」
    「仲良う乙狩はんの真似しとらんと。ニキはんは燐音はんから乗り換えたほうがいいんとちゃうか」
    「うん、こっちのパンも美味いっすね~♪」

    うっかり乗せられている場合ではない。
    時刻は15時。
    それぞれの都合を考えると、今日この時間にしか集まることができなかった。
    SNSで事前に打ち合わせをしてもよかったのだが、椎名が「スマホをたまに燐音くんに持って行かれる」と訴えるので不可能だったのだ。
    桜河の言う通り、プレゼントでも贈るなら早めに決めてしまわねばならない。

    「椎名。天城は本当にここには来ないんですね?」
    「ん、うん。パチンコ行ったっぽいんで、6時すぎるまで帰ってこないと思うっす」
    「ほんなら、チ□ルチョコでも買いに行こか。さっさとせんと、こういうんは」
    「ふむ」
    「いいんじゃないすかねぇ、あ~! コロネからチョコが溶け出てるっ!」

    ハンカチで椎名の顔を殴打する。

    「痛いっ! あ、貸してくれるんすか? ありがとうHiMERUくん! 洗って刺繍して返すっすから!」
    「刺繍はいりません。……定番なら、花束、服飾品などですか」
    「花か。わしら蜂のリーダーにはお似合いかもしれへんな」
    「服飾品もいいと思うっすけどね~? 燐音くん、服のセンスがないって言われてるっす」

    ──静寂。

    「……それは別の機会に話しましょう。花束で良いですか?」
    「ええんとちゃうか」
    「賛成っす。もうちょっと食べたいんで裏まわっていいすか? 今日の下ごしらえもまだ少しあるんすよね」
    「どうぞ、ご自由に。HiMERUと桜河で調達してきます」
    「わしとぬしはんで?」

    HiMERUはスマートに椅子から立ち上がる。
    椎名はバタバタと厨房へ向かう。

    「そうですよ、桜河も来てください。HiMERUだけでは天城へ贈る花束などとても選べません」
    「へェ、ぬしはんにも不得手なことがあるんやなァ」
    「男へ、特に天城へ贈るものなど考えたくもないという意味です」
    「……わかるわァ」


    椎名に見送られ、店を出て手近な花屋へ向かう。
    パチンコ屋のある通りを避けて、脇道へ入る、そのまままっすぐ、突き当たりを右に曲がって。
    桜河は熱心に話しかけてくる。

    「よう知っとるなァ、こんな道。素人とは思えへんわ」
    「なんのことですか」
    「花は何色にするんや? 燐音はんいうたら、まず赤色が浮かぶ」
    「赤、ですか」

    HiMERUは壁際へ寄り、立ち止まる。
    クリーム色の壁はまだ新しく、ツタが流れ落ちている。
    HiMERUが立ち寄る場所はこうでなくては。

    「桜河、こちらへ。通行人の邪魔になります」
    「? あァ、前もってスマホで見ておくっちことか」

    胸のあたりまで下げたHiMERUのスマホを、桜河が覗き込む。
    検索キーワードは『花 赤色』だ。

    「なんかええのあるか?」
    「……バラくらいしか。あの男には似合いませんね」
    「曼殊沙華なんかどうや」
    「賛成ですが、この時期に花屋で入手できるか疑問です」
    「やっぱバラかいな」
    「バラですか……」

    HiMERUは沈思黙考する。
    バラ。
    バラにも様々な色がある。
    桜河が赤色というからそのように検索をしたが……。

    「バラでいいでしょう。あとは店員に尋ねればいい。桜河、行きますよ」
    「ん、ええけど。たまにぬしはん強引やな」

    小走りに桜河がHiMERUのあとを追ってくる。
    いまはHiMERUがリーダーだ。
    悔しいが、『いま』だけ。


    「ご友人のお誕生日ですね。でしたら……」
    店員はやはりバラの花束を勧めてくる。
    相槌を打つHiMERUの横で、桜河は黙ったままだ。

    「桜河、あなたも──」

    微動だにしない桜河のほうへ顔を向けると、なにかをキラキラした瞳で見つめている。

    「……?」

    視線の先をたどると、小さなパンダのぬいぐるみがたくさん詰め込まれた箱があった。

    「……あれは?」

    店員にはフレンドリーに、しかし慣れ慣れすぎない距離を保ってHiMERUは尋ねる。

    「ああ、あれはですね、花束とセットになっているぬいぐるみなんですよ。可愛いですよね、当店でも人気の商品で」
    「それをいただきます」

    桜河がハッと我に返る様子が視野に入った。

    「あ、あれにするんか、HiMERUはん」
    「嫌ですか」
    「ちゃ、ちゃうで、あれええなと思って見とったんや」

    赤をすこしマイルドにした、オレンジ色のバラ。
    純白のカスミソウに、艶やかな緑の葉が加わる。
    ラッピングは同じくオレンジ色のバラに、リボン。
    ガサガサとたいそうな音を立てている。

    「……桜河。あれは、あなたが持ってください」
    「なんでや」
    「HiMERUは目立ちたくないのです」
    「わしが目立つやろ。わしとおったらぬしはんも目立つで」
    「ですから、HiMERUは別の道から帰ります」
    「難儀やな」
    「なんとでも」

    *  *  *

    相変わらずCrazy:Bのメンツはバラバラだ。
    単独行動ばかりして、『ラブはん』の所属するALKALOIDなどとは大違いだろう。
    でも、これが意外と、居心地がいい。
    独りに慣れてしまったせいだろうか。
    ふらっと寄り、ふらっと離れて良いような場所はこれまでなかった。

    しかし、通行人がみなこちらを見ている気がして気恥ずかしい。
    さっさと『シナモン』に戻ってしまおうと、早足になる。

    「こはっくち?」

    後ろから声がかかった。

    「ラブはんか」
    「やっぱり! どうしたのォ、……ってその花束、カノジョに贈るの!?」

    まずいところを見たとばかり硬直するので、顔を寄せて小声で告げる。

    「ちゃう。何勘違いしとるんか知らんが、これは燐音はんの誕生日に買ったやつや。もちろんわしの金だけじゃのうて」
    「あ、ああー! ヒロくんのお兄さんの誕生日ねェ! 焦っちゃったよォ……」

    二人で歩くと気も紛れる。
    花束のガサガサ音も紛れる気がする。

    「ラブはんはどこ行きはるんや」
    「ん、寮に帰るとこ。こはくっちは?」
    「『シナモン』や。なんなら途中まで一緒に行こか」
    「うん。ああ、ヒロくんもずいぶん前からお兄さんへのプレゼント用意してたなァ」

    かぶっていたらまずいかもしれない。

    「……中身はわかるか?」
    「ん~、シルバーアクセ、だったような?」

    服飾品にしなくて良かったらしい。


    ラブはんと分かれて『シナモン』へと向かう。
    ニキはんがいるのは当然だったが。

    「なんでおるんや、ぬしはん……」

    愕然とする。
    『シナモン』店内では天城燐音がオムライスを咀嚼していた。

    「ん? あー、こはくちゃんか。どうした、おまえカノジョでもいンのかよ?」
    「おるはずなかろうが、このタコ。つぅか……」

    燐音はんの目にもこの花束はしっかり映ってしまったらしい。
    慌てて厨房へ回る。
    入り口で大声出して呼んだ。

    「ニキはん、ニキはん!」

    包丁をまな板の上でリズミカルに躍らせていたニキはんが申し訳なさそうな顔でこちらを見た。

    「ああっ、燐音くんね。なんか全部スっちゃったとか言って、さっき帰ってきちゃったんすよ。ごめんなさーい……」
    「ぬしはんが謝ることやないけどな。HiMERUはんは?」
    「ああ、HiMERUくんからは連絡来たっす。急用ができたから今日は来れないって」

    バラバラ単独行動も、ここまで来たら呆れるのを通り越して感心する。

    「おいニキー、お代わりねェのか?」
    「あるっすよー。お皿持ってきてー」
    「なっ、何言っとんのや、燐音はん来たらコレが」
    「あっ、綺麗な花束~! どうせバレてるだろうし、ここで渡しちゃいましょ! ていうか花粉散ったら困るっすから、出ましょ」

    厨房から出ると、燐音はんが空の皿を手に近づいてくる。

    「ニキはん、どうするんや」
    「こはくちゃんが渡してあげて~♪」
    「なんでや!」
    「いいからいいからっ」

    軽く背を押され、パンダ付き花束を手に燐音はんの前に飛び出すハメになる。
    こうなったらもう、覚悟決めるしかない。
    燐音はんはちょっと驚いた顔でこちらを見ている。

    「燐音はん、コレはわしらが割り勘で買ったぬしはんへの誕生日プレゼントや。ありがたく受け取らんと○すけんのォ!」

    さっと、花束を差し出す。
    瞬間、甘い花の香りが香った。
    オレンジ色のバラの向こうで、水色の瞳が細められる。

    「おー、怖っ! じゃあ、いただいときますかァ。ギャハハ、みんなの割り勘ってか! ありがとなー、こはくちゃん♪」

    頭を撫でられ、思わず一歩引いた。

    「……酒くさ」
    「ウン、過去のことは忘れたいっつか。いまがハッピーならそれでいいっしょ! おまえが渡す係なんだな、うまくできたゴホービにこれやるよ、こはくちゃん♪」

    花束についていたパンダのぬいぐるみを頬に押し付けられる。

    「ほ、ほんまか……!?」

    燐音はんは瞬間、なぜかぽかんとしたけれど、すぐにいつもの大声で笑った。

    「俺っちは嘘つかねェっての! ってか、そんな顔すンなよ、ほんとおもしれェな、こはくちゃんは」

    受け取ったパンダのぬいぐるみは、付属品のわりに縫製が丁寧で、手触りもふかふかだ。

    「お、おおきに……」

    燐音はんが、また大きな声で笑った。


    「ニキ。おめェは?」
    「ん?」

    いつの間にか厨房に戻り、なにか食べていた椎名はんが頬をふくらませて振り返る、

    「僕は料理担当っすよ! 7段重ねのケーキを作るっす!」
    「ぎゃはは! すげーな、オイ! ウェデイングケーキでもそんなモンあるかァ?」
    「ウェディングケーキは3段って決まってるっすからね~。それぞれに意味もあって。あ、7はラッキーセブンの7っすよ! これで燐音くんがバカスカ当てて僕のお財布からお金抜かなくなりますようにっておまじないっす!」

    なんとなく気になって尋ねてみる。

    「HiMERUはんのことは、聞かんのか?」
    「ん? メルメルはあれだろ、照れちゃって消えたクチだろ。さっきメール来てたぜ。『ハピバ(はーと)』ってやつが」
    「ぜったい嘘や……」

    でも、少し安心する。
    HiMERUはんがどこまで計画通りに動いていたのかはわからないが、みな一様にリーダーの誕生日を祝っている。

    「バラの花束なんてモンを誕生日にもらったのは生まれて初めてだなァ」
    「そ、そか……。よかったな……?」
    「蜂の王には相応しいっしょ!」

    なんだか意図が伝わったようで、……嬉しい。


    先程は気づかなかったが、『シナモン』のテーブルたちは隅に寄せられ、中央にどんと長テーブルが置いてある。
    パーティー用に、店にはこういったテーブルも奥に置いてあるらしい。
    「それ、僕と弟さんで運んだんすよ~」
    「弟くんが来てたのか?」
    「入れ違いになっちゃいましたね~。燐音くんに用があるって言ってたっすから、そのうち連絡くれると思うっすよ」

    さて、とニキはんが料理を持って表に現れる。

    「はいは~い、ニキくんお手製の冷製スープとっ、サラダっ、カツ丼パスタステーキお寿司……」
    「こないに作ったんか……さすがニキはんやな」
    「だいたい僕が食べるっすね」
    「おめェは一口も食うな」
    「えぇ~、これってなんらかのハラスメントっす!」

    次に取り出されたのは炭酸のぶどうジュースだ。
    洒落たグラスに注がれると、ワインにも見える。

    『こ○もの飲み物』と迷ったんすけっどねー、とニキはんが笑う。
    燐音はんは意外と満足そうで、意外だ。

    「酒はねェの?」
    「僕ら未成年すよ。多数決っす」
    「と、思って俺っちは先に飲んできたわけ! すげェなあ、先見の明があるっしょ! ……痛っ! いま蹴ったのこはくちゃんかよ!?」
    「ぬしはん見てるとムカつくんや」
    「こはくちゃんのほうがハラスメントっしょ!」
    「はいはい、じゃあ燐音くんのギャンブル運アップとかその他もろもろを祝って、かんぱ~い」

    3人で炭酸ぶどうジュース入りのグラスを高らかに掲げる。
    明かりに照らされて、炭酸の粒がキラキラと輝いた。


    「ん~我ながらこの焼き加減がたまらないっすね!」
    「そうかよじゃあ俺っちもそのステーキいただくわ」
    「僕の……! なんでわざわざそういうことするんすかね!? 僕に構ってほしいんすかね!?」

    ステーキをざっくり半分とられてニキはんが半泣きだ。

    「ンなわけあるか!」

    グラスの中身を豪快に煽る燐音はんだが、中身はぶどうジュース。

    「うぇ、甘ェ」
    「僕らにはこの味が一番すよね!」

    お代わりどうすか、と手を差し出され、空になったグラスを渡す。

    *  *  *

    満を持して。
    あらかたメインを食べきってしまったので、お皿を下げてホールケーキの7段重ねを運ぶ。
    こはくちゃんの目が輝いて、燐音くんもちょっと目を見開いている。
    それもそうだろう。

    一段目はいちごのホール、二段目はチョコレート、三段目はお抹茶で、……。
    しかし全体の見た目は統一して、見た目の美味しさも損なわないようにしている。
    そのせいで、ギャンブル好きの燐音くんに言わせれば、ロシアンルーレット的に中身がわからないようになっているけれど。

    さすがに、ここまでの大作を作ったことはない。
    ぶっちゃけ重みでぐらぐらする。
    台座がやばいかも。

    「ヘルプ~」

    声を上げるとこはくちゃんが駆け寄ってきて横から支えてくれる。

    「ニキはん、バラバラに持ってきてもよかったんとちゃうか」

    燐音くんが楽しそうにこちらを見ている。
    甘党なのかはそういえば知らないけれど、燐音くんは基本なんでも食べる。

    「でも、やっぱ第一印象が大事っすから。見た目でぐらつかせて味でノックアウト、ってのが料理人の戦い方っす」
    「なんで戦うんやろか」

    喜ばせたい人は、3人に増えた。
    本当はなんとかの塔くらい高い高いケーキを作りたいけれど、そこまでいくとさすがに土台がぐらつく。
    やっぱりアイドル活動に興味はマイナスだが、Crazy:Bのみんなのことは好きだ。
    ぐらつく、なんて縁起のわるいものを仮にもリーダーの食卓にはのせられない。

    「はい燐音くん、みんなで出し合ったお金で僕が買い出しに行って、作り上げたすごい7段ケーキっす!」

    こはくちゃんと一緒に、7段ケーキをテーブルの上に置く。

    「うぉ、これはマジでバカスカ当たる予感しかしねェ! よし結婚すンぞ!!」
    「無理っす」

    答えてまた厨房へと引っ込む。
    『シナモン』とっておきの装飾が施されたケーキ皿を取って、重ねる。
    店長が使って良いと言ってくれた。
    ただし、割ったら大変な借金だ。

    ニキはパシりだとかなんとか、聞こえてきた気がする。
    こはくちゃんの大きなため息も。

    14の歳に拾ったモノは一人の人間だった。
    お腹すいてるんならかわいそう、そんな気持ちだったかどうか、もう覚えていないけれど。
    あっちがこの恩を忘れているのならもう人でなしだと思うけれど、そうではないから。

    燐音くんには自分にはない綺麗な部分があって、でもひた隠しにしているそれは、Crazy:Bのメンバーにはもうバレてしまっている。
    そういうところが好ましいと思っているのはおそらくみんな一緒だ。
    いや、切り捨てるのがめんどうなだけかも。
    そんなことしてたらお腹がすくし。

    皿とフォーク、ナイフを持って表へ戻る。

    「じゃ、切り分けるっすよ~。あ、燐音くんやるっすか? 入刀」
    「おう、任せろっての」

    ナイフを持つ手は危なっかしく目に映る。
    前に包丁で僕を脅したときも、なんだか刃先がブレてたっけ。

    「そおっと、そおっとやで、燐音はん」
    「任せとけっての! そォら」

    思ったよりも綺麗にケーキを切り分けて、7段重ねよりも高らかに笑っている。
    燐音くんも結構ノリノリで、良かった。


    ハチミツ入りのレモネードを出して、今日の仕事はおしまい。
    いやまだ、食器洗いとかあるけれど。

    「気ぃ効いてはるなぁニキはん。これ、甘くも酸っぱくものォて、ケーキのあとでも美味いなァ」
    「俺っちはアルコール不足っしょ。ニキ、ちょっと買って来い☆」
    「未成年だから買えないっす」

    今日のためにセッティングした長テーブルの上には、4人ぶんのレモネード。

    「HiMERUくんもいればよかったんすけどね」
    「──HiMERUの話をしましたか」

    ぎょっとして顔を上げると、入り口からHiMERUくんがこちらに向かって歩いてくる。

    「お~、来てくれたんすねHiMERUくん!」
    「待ってたぜ、メルメル♪」
    「燐音はん、メールにはなんて書いてあったんや」

    HiMERUくんは空いていた僕の向かいに着席した。

    「あなたがたときたら……。椎名、これはいただいても?」
    「どうぞ~、そのために置いてたんすよ! ごはんはどうします?」
    「食べてきました。……お付き合いで」
    「了解っす~。おなかすいたら言ってくださいね」


    燐音くんが笑ってる。
    ばかみたいないつもの虚勢っぽい大声でじゃなくて、なんだか優しい表情で。
    3人がかりでやっと、これだけど。
    これだけできれば十分じゃない?

    「みなさ~ん。“アレ”をやるっすよ!」
    「お、何が始まンの?」

    3人とも、それぞれが用意したクラッカーを取り出す。
    HiMERUくんは普通サイズのやつをひとつ。
    こはくちゃんは小さいものをやたらたくさん。
    僕はパーティーグッズ売り場で見つけた巨大なクラッカーをひとつ、厨房から持ってきて席に着いた。

    取り出したクラッカーを一斉に鳴らす。

    「こいつは連射じゃ!」

    こはくちゃんが、燐音くんの耳元で立て続けに小さなクラッカーを鳴らしている。
    そして燐音くんが、色とりどりの視界の向こうで笑ってる。

    長年ふたりきりのバースデーパーティーだった。
    楽しかったけれど、どこか、燐音くんにふさわしいものじゃないように思っていた。
    今年からは、そうじゃない。
    このメンバーで、来年も、再来年も、ずっと。

    「なんだかんだめでたいのォ、燐音はん」
    「HiMERUも天城の健康と長寿をお祈りしますよ。──ああ、お祈りだなんて忌々しい」
    「メルメルいまなんて!?」
    「こっちの話です」

    ずっとCrazy:Bはこのように在りたい。

    (良かったっすね、燐音くん。ここがあなたの居場所っすよ)

    *  *  *

    HiMERUくんもどこか和やかな顔をしていて。
    こはくちゃんは足をぶらぶらさせて、いつもより浮き立っている。

    「燐音くん」

    燐音くんがレモネードに口をつけたまま、視線をこちらに向けた。

    「──お誕生日おめでとうっす」

    僕らのばかみたいな、愛すべき『リーダー』さん。
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