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    サンフリ前提のキャラとサンズの会話。
    短編。G√。

    サンフリ話

    サンフリ前提のキャラとサンズの会話。
    G√。


    息は絶え絶えになり、思わず床へと膝をつく。握っていたダガーナイフのグリップから手を離し、床に置くと既にダガーナイフの刃は刃こぼれしており、ガタガタに歪んでいるのが分かった。
    既に穴の空き、ボロボロに歪んだ床にナイフを突き刺すと、目の前の大理石の柱にもたれかかる一人の男にゆっくりとした足取りで近づいて行く。

    男も自分同様に息は絶え絶えで脂汗の様なものを垂れ流し、男が身に纏っていたブカブカの青いパーカーは何度も何かが擦れたようで既に裾部分はボロボロになっていた。
    男は近付いて来る足音に頭部を上げると、自分の顔を見て忌々しげに、既に持ち上っていた口角の端を更に持ち上げた。

    「hehheh……んだよ、クソガキ。
    悪いがお前を此の先に進めさせる訳にゃいかねぇんだ。諦めてリセットしな」

    武器も使えないだろう。そう付随させて呟いた男は乾いた笑い声を響かせると、じっと此方の様子を伺っていた。心身の疲労が限界にまで近いのだろう、男は疲れで意識が飛ぶのを堪える様に、ただ此方を睨み付けて一挙一動見逃さぬ様に佇んでいた。
    男の言葉通り、強制的にダガーナイフを握る事が出来なくなり、自身も疲労からか、男を睨み返す視界の端がボヤけて行く様にも錯覚した。

    疲れた。
    辺りには何十、何百本と床材や壁、柱から生えた骨のオブジェクトが突き刺さっており、その大半は既に折れて見るも無惨な状態に変わり果てたものばかりだ。当然である。あのオブジェクトの大半は自分がダガーナイフで折ったものばかりだからだ。存じている通り、骨とは人体を構成するに於いて、非常に強固で頑丈な造りの要となっており、鉄塊ですら叩いて歪ませられる力を持つ。つまりたかが一本折るだけでも相当の労力を要す。

    ……まあ"今回の場合"のこの骨達は魔力を主として構成されている物質の為、実際の様な骨までの強度は無いが、それでも鋭く尖らせれば、人体など容易に貫ける程に硬い。その骨攻撃に幾度ソウルが粉微塵に吹き飛んだか分からない。
    そんな骨達をこうも数え切れない程叩き割り再起不能に木っ端微塵に折っているのだ。どれだけ心身に負荷が出ているのかは言うまでも無い。筋肉痛どころの話ですらなく、四肢が捥げるのでは無いかという位身体は限界を迎えていた。

    お互い心身共に限界だった。

    無言で男に歩み寄る自分に、男は怪訝な顔をして思わず口を開く。

    「近づいて息の根を止めようとしたって無駄だぜ。お前のターンは回って来ない。お前は武器を拾えない。何時間だって待ち続けようがずっとこのままさ。お前が諦めるまではな。
    そこでボーンと突っ立ってる位ならリセットしたらどうだ?諦めて許諾しろよ、この世界を」

    この男らしい言葉だ。この男は何もかも全てを諦めている。何度繰り返し何度幸福に満ちても、何度も全てを無かった事にされたその時間に絶望し、呆れ果て、何もかも諦観し堕落、怠惰になった。戯けた様に振る舞い自身をひた隠し、ただじっと此方を監視していたのだ。全てを諦めるからこそ。
    ああ、自分は知っている。

    "何度もその光景を見た。"
    "何度もその言葉を聞いた。"
    "何度もその諦観した目を見つめてきた。"

    男の目の前まで歩み寄ると、手を伸ばせば届くであろう場所に座り込み、男の視線に目を合わせる。男はふざけた様な笑みを解くと、やっと真の内を露わにした表情に変わり、また睨み返す。

    「……何をしてる」

    気でも狂ったか?と言わんばかりの顔で此方を睨み付ける。男目線からしたらとうの昔に自分は気が狂っている様に見えているだろう。

    「そうやって監視し続けて、オレの気が緩んだ隙に攻撃でもするつもりか? 無駄だ——」

    「——ボクにリセットは出来ないよ、Sans」


    プツリ、と何か上部から何かを切る音が響く。一瞬暗転したと思いきや風景は変わらずそのままで、目の前には自分の言葉で怪訝に睨み付けるスケルトンの男がいるばかりである。

    「どういう意味だ。少なくともお前にはその力がある筈だ。セーブロードを繰り返し、ただ己の」

    「無いんだよ、"ボク自身には"ね。
    お前が言うそのセーブロード、リセットの力は何もボク個人の物じゃない。少なくとも現時点では、だ。
    この身体……いや、正確に言えば"ケツイ"かな。この世界でのケツイと呼ばれるものが半強制的にボクを動かしている」

    堰を切ったかの様に舌はペラペラと言葉を乗せていく。男はその様子に違和感を感じていたが、どうやら持ち前の洞察力は相手を観察する事を選択したらしい。実に憎たらしい。

    「……随分饒舌になったじゃねぇか、クソガキ。顔色一つ変えずモンスター等を殺戮する殺人鬼は、実は頃合いを見れば饒舌になるmurderだったとはな。人は見かけによらずって訳だ。
    ……で、それはお前じゃないって事は、要するにお前を動かしている別の存在の事か」

    「元々ボク自身は多弁な方だよ、クソ骨野朗。お前だって何度も言ってたじゃないか。そもボクは元来表情豊かな方だ。そう見えてこなかったのは、"奴"が地下に降りて来て、ボク自身もあの遺跡の花畑で目覚めてからかな。
    ……そ。
    上記でも説明した通り、ボクのソウルを操っている奴がいる。今でもお前のターン中に何か進める方法は無いかと模索している。
    お前を必死こいて殺そうとしている、ボクの手で」

    それはまるで自然に浮かび上がるかの如く口角は吊り上がり、男の肋骨に向かってナイフを振り翳すが如く、指が風を切る。男はその行動に、つまらなそうに舌打ちをすると、忌々しげに目を細めた。

    「安心しなよ。この会話は"奴"には聞こえない。ボク本人の会話は一部分しか見えてないんだ。当然だよね。"この限られた世界の中じゃ、ちょっと表情を動かすだけで精一杯"だからね。
    ……ねぇ、どの道お前は逃げ道を見つけられて殺されるさ。その前にちょっと、ボクの話に付き合ってみないか? 」

    「……」

    男は何一つ答えずにただ黙って此方を睨みつけている。殺害予告を受けて笑っているのもおかしい事か、と内心鼻で笑いながら男の反応を勝手に肯定と受け取り、過去の意識を手繰り寄せて行く。

    「元々ボクは死人でね。身体も既に朽ち果てて、ただソウルだけが宙を彷徨う、もう既にこの世には無い存在だった。ところが、ある存在がこの地下に落ちて来て、とっくに朽ち果てた筈の遺体は起きあがった。ただ朽ち果てた筈のソウルと遺体は結び付かない。ソウルを入れる為の器の生命活動が既に終わってるんだ、動く訳がない。

    だがそれを可能にした。
    とある奴の"ケツイ"によって結びつけられた。この世界《ゲーム》を完遂するっていうケツイだ。そのケツイは具現化して、ボクの漂っていたソウルに取り込まれて、プレイヤーの仮初の分身として、ある人格を形成した」

    閉じられた瞳。
    自身より焼け焦げた様な小麦色の肌。
    握られた棒切れ。
    衣服から見え隠れする薄汚れた包帯。
    肩までの茶髪。

    変わり映えの無い無表情な様子で、ただ此方を眺めている。

    「本来ならこの人格は消去される程弱くは無いんだ。何せこの世界で一番強いケツイで結びつけられたソウルだ。簡単に消えやしない。
    しかし、Flowyがセーブロード出来なくなるほどの強さを持つソウルの人格がみるみる内に消去されて行き、代わりに別の人格が浮かび上ってきた。
    お前なら分かるね」


    「返答は求めてない。そう、ボクだよ。
    本来なら表に現れ出でる筈の無い、ボクの存在は、とある行為によって段々と露わになって行った。
    お前もご存知の通り、Genocide。モンスターを倒す事で得られるEXP、モンスターを倒す事で上がるLove。その存在達が仮初の人格を壊して行った。本来なら人格を完全に得られる筈だった人形は、全く別の人格に意識を乗っ取られてしまったって事だ。
    ハハハ、笑えるよな。

    ……その人格には、仮初に与えられた名前だって存在した。……ねぇ、お前なら分かるんじゃない」

    まるで会話のターンを譲らない様子で止まる事の無かった口上は、乾いた笑いと共にプツリと途切れる。男の目をちらりと一瞥した後後ろを向き、男に向かって背中を向いて座り出す。
    男は暫く黙っていたが、伏せられがちだった瞳を一度小さく閉じると、直ぐに目を開いて、目の前の人物に向かって言葉を吐き出す。

    「……
    ……、……記憶に完全に残ってる訳じゃ無い。オレはセーブロード、リセット時の記憶は引き継げない。
    ただ、何処かの記録でお前と。お前さんやモンスター達と共に地上に出た記録は何度も観測して来た。その時には、その人格の名前を何度も呼んだんだろうな。
    ……そんな名前を聞いて、何が目的だ。お前は誰で、何処まで知っている」

    出た。明らかに先程までとは見るものを変えた視線。殺人鬼であるという目は変わらずだが、自分がただの殺人鬼では無い事に興味を抱いている。

    「ボクはボクだよ。それは言うまでもない。でも、君が知り得ている情報より少し多めにこの世界の構造を知っている。
    お前の知らないモンスター達を知っている。
    お前の知らないお前を知っている。
    この世界がセーブロード、リセットを繰り返されている事を知っている。
    この世界が何度も何度もリセットされて、今回やっと殺戮したのを知っている。
    ……

    その平和な世界の延長先で
    お前を愛していた"彼女"の記憶を、ボクは知っている。
    "彼女"を愛していたお前の言葉を、ボクは知っている」

    記憶容量の奥底で消えかけていた記憶が思い出される。それは断片的な記憶でしか無い。隣り合って歩みを進める異種族同士の二人は、計り知れない程に深く、純心な愛情が窺い知れた。
    今の姿より成長した姿の"彼女"は、男に向かい、笑顔を浮かべる。その表情の詳細は思い出せないが、二人の空間を作り出していたのは理解していた。


    ——言葉をポツリと吐いたその瞬間、ぐらりと視界の端が歪んだかと思うと、笑みを深くして再び男に向き直る。

    「……さて、時間だ。
    お前はボクに殺される。あんだけ疲れていたのによくボクの前で欠伸一つかかなかったもんだ。さ、おやす——」

    大理石の柱にもたれかかる男を見下ろしてダガーナイフのグリップを掴もうとした。然し掴めず、気付けば段々と空間の端が崩壊しているのだ。

    思わず笑みが消える。
    ————"リセット"しやがったな。

    クソが。本当にこんな土壇場でリセットする奴があるか。モンスターを殺し尽くし、Torielもpapyrusも、あのUndyneも、Mettatonも。そしてSansのあの猛攻を耐えに耐えた癖に全てを打ち壊して無かった事にしやがった。巫山戯るな。

    「巫山戯るなよ、player」

    歯をぎりぎりと音を立てて歯軋りをする。そうか、成る程この先を見る事に怖気付いたと見た。自分で全てを打ち壊しておきながらその責任を取るのが怖いのだ。だからこんな真似が出来る。このplayerの中途半端さのケツイが、結果的に一旦はこの世界を救う事に至ったのだ。
    ボクという存在を再び封じ込めるのを引き換えに。

    「……」

    男は相手の様子に暫くついて行けなかったが、空間が滲んでいる事がリセットされる事に一旦の安堵を覚え、歯軋りして焦燥感に駆られる相手を見やる。
    軈て脱力し背中を丸めると、再び男に向き直り、人間は苦々しく笑顔を浮かべた。

    「……。事実は変えられないからな。
    ああ、ったくお前にまだ伝えたい事が色々あったんだ。どうせまた消えるかも知れないんだ、伝えておくよ。

    ……ボクと"彼女"はこの世界では言わば一心同体。地上に出てからはボクは本当に消えつつあったが、つまりは記憶も共有している。ただ断片的な記憶でしかない。記憶媒体にも限りがあるからな。この次のリセットまでに覚えていられる保証もない。

    ……
    彼女からの伝言だ。
    "君"の側でいられて幸せだった。異種族でありながら君はずっと笑顔にしてくれた。親善大使であるボクをずっと支えてくれた。ボクがボクで在れた。
    ずっと伝えたかった」

    「"君を愛し続けてる。Sans"」

    段々と空間が白んで行く。男はその言葉に立ち上がり、何か名前を口にしたが、最早その言葉は鼓膜には届かず、場面は暗転した。


    見慣れた景色。
    金色の花畑で横たわる一人の姿があった。人間は機械的にむくりと上半身を起こし、立ち上がると、慣れた動作で出口まで歩いて行く。

    ————その頬に、一筋の涙を溢しながら。
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