これは序章「ノートンにそっくりな男がいる」
ピット裏で数時間ぶりに吸う煙草に脳の奥を痺れさせているとコーヒーと雑誌を手に人間の相棒…マイクがそれはもう愉快そうな声で突飛なことを言い出すので思わず眉をしかめて間抜けな声を返してしまう。
隣の席に肩を寄せるように座る彼が差し出した雑誌は普段自分たちが読む車やレース関係とは明らかに違う、随分と甘ったるく絢爛なデザインの表紙で、まるで一昔前の貴族の様な装いをした男女のイラストが使用されている。
「観劇なんて嗜む教養があるとは知らなかったな」
「弟が劇場に勤めていてね」
雑誌を開きとある記事を指差す
"Golden Rose"
街に住んでいれば何度も目にする程大きな劇場だ、それ程の劇場に彼の弟が勤めていることに少しだけ驚いた。
9758