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    揚石ちゃん

    @stone_fry
    微エロ・落書き・各供養の他ワンクッションいれたくなったときに使うかも

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    揚石ちゃん

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    ※ほぼ不倫 ギリ未遂※
    ?×フレ⇄ビシュ の短文。
    可哀想、辛い、後味が悪い、のが好きな方向け

    ##文章

     コンコン。

     まだ、町のほとんどの人が夢の中にいる早朝。周りに響かないよう、控えめにされたノックの音が耳に入る。扉を開ければ、二つに結った長い髪を揺らす彼女が笑いかけてくる。

    「おはよう」

     そう言って振る手の指には、結婚指輪を輝かせて。

    「おはようございます」

     以前は僕が毎朝、彼女の部屋へ赴いてモーニングコールをしていたが、今はこうして彼女が僕の部屋へモーニングコールをしにくる。夫には、畑へ行くと伝えているのだろうか、防具や仕事道具を着けたいつもの格好をしている。一方僕は、いつもの執事服ではなく寝間着のままだ。
     ことの始まりは、彼女が結婚して数日後の朝。

    「ビシュナルくん、最近朝来てくれないから、起きてるかなと思って」
    「それでしたら……もう夫婦の住まいになったんですから、モーニングコールはしませんよ」
    「えぇーどうして?」
    「行けるわけないじゃないですか」

     そう伝えたはずなのに、それがどうして、その後も理由をつけては毎朝訪ねてくるようになった。

    「朝はビシュナルくんの顔を見ないと始まらないんだよね」

     なんて言って、僕のベッドに無防備に転がっては「ビシュナルくん、好きだよ」と、いたずらっぽく囁くのだ。さして驚きはしない、彼女の口癖のようなものだから。
     それに彼女が結婚する前は、僕たちは付き合っていた。同時に彼女は現在の夫とも付き合っていたが、それは向こうはもちろん、町中が知っていたことだ。今さら良いとか悪いとか、蒸し返すこともない。
     ただ、今はもうその時と同じようにというわけにはいかない。彼女はもう、生涯一人を伴侶とし、愛することを誓ったのだから。

    「結婚してるのにそういうことを言うのはよくないと思います」

     同じことを何度言っただろうか。それでも続けるとはいい加減、何を求められているのか目的がわからない。

    「どうしてそんなことを言うんですか?」

     もう別れたのに。結婚しているのに。

    「本当に好きだから」
    「……本当って、一番じゃなかったじゃないですか」

     左手の結婚指輪が主張する、彼女の一番好きな人。

    「だって、あの人には私が必要だから」

     なにが"だって"なのか。彼女に僕は必要じゃなかったのだろうか。それなら尚更どうして、こんなことを続けるのだろう。また泣いてしまう、きっともう涙目だろう。泣かない特訓をしようとしたこともあったけれど、どうしていいのかわからなかった。

    「……僕は姫が一番好きでした。僕だって姫が必要でしたよ」
    「必要なら、ここにいるよ」

     そう言って彼女が手を引いて、僕の顔にその顔を近づける。

    「ダメです! やめてください」

     何をしようとしているのかわかって、空いている手で慌てて自分の口を塞ぐ。付き合っていた時は何度も重ねた唇が、今は越えてはいけない一線だと思ったから。彼女がふっと、悲しそうな表情をしたことに胸が痛む。

    「違うんです……。もうやめましょう」

     涙をこぼし、消え入りそうな声で言う情けない僕の頭を、彼女がそっと撫でる。結婚指輪を着けた手で。
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