流れる雲が、月を隠した。
月明かりのなくなった夜の闇は、深く暗い。
風が、木ノ宮タカオの頬を撫でていく。
「…」
夜も深い時間だ。
音もなく、風のほかに動くものは何もない。
タカオは隠れたままの月を眺めながら、今はこの空気を感じて、それを心地良いものだと受け入れる。
タカオの視界には、まばらに輝く小さな星しかない。
縁側に座って、この空気を感じているだけで心が落ちていく。
タカオの気持ちは、とても穏やかであった。
「…眠れないのか」
静かな夜に、静かな声がタカオの耳朶に響いた。
火渡カイだ。
「カイ」
タカオは、カイが起きていることに驚きはしなかった。
タカオの隣に、カイは自然な動作で座る。
「ま~ちょっと色々考えてたらさぁ。なんか眠れなくて…」
明日は世界大会の決勝戦だ。
タカオが戦うのは、かつての友であるゼオだ。
雲が流れて、また月が顔を出し、タカオとカイを照らす。
月の光は、タカオの目に優しく映っていた。
「オレさ、ゼオに勝つよ。絶対勝つからさ。みんなのためにも…オレのためにも」
タカオの手が、隣に座ってくれたカイの手に触れる。
カイの手は、それを受け入れた。
温かい手だ。
カイの体温が、タカオに伝わる。
タカオの目が、カイの横顔を見つめる。
優しい月の光に照らされた輪郭は、とても美しく見え、タカオは息を飲む。
「なあ…カイ。…触ってもいいか?」
カイの手を握りながら、甘えるようにタカオは言う。
カイの手はブレーダーとして、しっかりとした手のひらの感触であるが、それでもどこか柔らかさがあった。
「もう触っているだろう」
夜闇に溶けてしまいそうな声であったが、タカオには確かに届いていた。
「ぁ、いや…そういう意味じゃなくてさ…」
カイの瞳が、タカオの方を見た。
夜の陰影が、カイの微笑をより一層大人に魅せていた。
カイの唇が、タカオの乾いた唇へと寄せられる。
触れるだけの軽いキスだった。
「…明日が辛くなるかもしれないぞ」
「カイと一緒なら眠れるかな〜なんてっ! ははっ……」
照れくさそうに乾いた笑い声を上げ、タカオは握っていた手を離し、カイの肩を抱いた。
そうして、深く息をつく。
タカオの瞳に見つめられ、カイは小さく頷いた。
「勝てよ、木ノ宮」
カイは初めて、身体の力を抜いてタカオに、凭れ掛かるようにした。
「うん」
自分を見つめてくれるものがいる。その事実だけで、戦いの意欲が沸いてくる。
カイだけではない。
キョウジュやマックスにレイ、それにヒロミ――……。
眠りについているであろう仲間のことを思い出しながら、タカオはどこの部屋に行こうか考えていた。
49話後に絶対セックスしてると思うし、Gレボのタカオは非童貞感が強いので初夜を迎えるならここかなぁと思い書き始めたんですが、ちょっとしっとりし過ぎたかな…。
もうちょっとカイがガツガツ行く感じにしたかった「オレが男にしてやる…」的な笑
次からひたすらヤるパートです。