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    クルミ

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    クルミ

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    いっぱい食べる君の顔が見たくて

    いっぱい食べる君の顔が見たくて料理とは、より良い人の血へありつくための手段でしかない。

    「たまには食事でもどうだ?」
    暫く会えていなかった顔を見たくて誘ってみると、彼は嬉しそうにオッケーの返事をくれた。せっかく久しぶりに会ったのだから良いところをと念入りに調べ予約したレストランに連れて行こうとしたが、そこへ着く前に腕を引かれた。彼の、クラージィの指をさす方を見てみればどこにでもあるファミレス。まさかここがいいのかと顔を見てみれば聞かなくても分かり、仕方ないとキャンセルの電話を入れて腕を引かれるままファミレスに入る。
    「前に三木さんと吉田さんと入ったんだが、すごく居心地が良くてな。料理も美味いんだが、運んでくれるのが何とも可愛くて……あ、あれだ」
    指をさす方を見れば猫を模したロボットが配膳の手伝いをしているのが見える。最近のレストランはロボットにまで配膳担当をさせるのか。このままではいつかロボットに叛逆されまいかと些か人間の未来に不安視している目の前でクラージィはタブレットを操作している。
    「ノースディンは何を頼む?」
    「ん?そうだな、一番高い血液ボトルを貰おう」
    「分かった。他には?」
    「いや、それだけでいい」
    食事をと誘いはしたがノースディンは人間の食事をあまり好まない。逆に人間の友人と仲良くしているクラージィはまだ吸血鬼としての日が浅いからか人間の食事を好み、さらに言うと元聖職者が関係するのか吸血鬼が必要とする血が飲めないでいる。今回食事に誘ったのは顔を見るためと血を摂らない代わりにどうやって必要な栄養を摂取しているのかをこの目で見るためでもあった。
    先に出される血液ボトルを開け、グラスに注いで口にする。試しに飲むかと誘うも首を横に振られて遠慮されてしまう。
    仲良くなった人間の友人に弟子ドラルクと退治人の話、魔都で吸血鬼の被害に巻き込まれた話など、ノースディンが聞かなくてもクラージィは色々なことを話し始める。ほとんどが頭の痛くなる話ばかりだが、楽しそうに話す我が子の顔に何も言えないまま話を聞いていると機械音とともにあの猫型ロボットがやってくると料理を取るよう音声が言う。セルフ式なのかと思いながら料理を受け取ろうとするノースディンだが、一瞬目を疑った。配膳ロボットらしく、ロボットの背にはトレーが三段用意されているがそのすべてに料理が乗せられている。どこかのテーブルと混ざってないか?しかしクラージィは立ち上がるとロボットの背から次々に料理をテーブルへ並べていき、気付くと料理の皿で埋め尽くされた。唖然とするノースディンの前では配膳を終えた猫型ロボットへ丁寧に礼を言って見送るクラージィがいる。
    「クラージィ。これは全部お前が注文したもので間違いないな?」
    「そうだが?」
    「確認だが、お前がひとりで食べるんだな?」
    「ノースディンも食べたかったか?」
    クラージィの返答にノースディンは頭を抱えながら大丈夫だと答える。人間の友人とよくバカデカい料理を作っていることは知っていたが、まさか通常の料理ですらこの量だとは思いもしなかった。やせ細っていた体には幾分か肉が付いたとはいえ今だ細身の体のどこにこの量が入るのか。しかし、頭を抱えるノースディンをよそにクラージィはテーブル上の料理を次々に平らげていく。少しも残さず、綺麗に食しては次にいく姿をグラス片手に暫く眺めていると、クラージィの体についてほんの少し理解した。
    おそらく、血が飲めないかわりに食べることで必要な栄養を摂っているのだろう。極めて稀なことだが、吸血鬼に転化しても人間らしさが強く残っているのならあり得ることなのだろう。
    (それにしても、よく食べるな)
    結構な量を平らげているがクラージィの食べる手は止まらない。食べ物から栄養を摂っていると言っても人間と吸血鬼では体の作りが違う。人間の頃に取っていた食事量では足りないのだろうが、それにしてもよく食べる。
    「美味いか?」
    「ん?うん」
    「そうか。良かったな」
    まるで餌を頬袋へ溜め込むハムスターのような顔で頷く子を眺めながらグラスを口にする。その後も話しては食べ、話しては食べては皿を綺麗にして積み上げていくクラージィの姿にノースディンはどこか複雑な顔を浮かべていた。

    クラージィと別れ、館に戻ったノースディンは使い魔の猫を膝の上に撫でながら先程までのことを思い出していた。料理とは吸血鬼にとって血にありつくための手段でしかない。料理を口にした相手がどんな反応をしようと興味がなかった。元々吸血鬼に血以外の食事は必要ないので当たり前といえば当たり前なのだが、クラージィは違った。人間が作った料理を美味しそうに頬張る笑顔が頭から離れない。私の前ですらみせたことのない顔を人間の料理が引き出すとは。
    なら、私にだって。
    「……」
    テーブルに置いていたiPhoneを手に通話画面を開く。相手先は古くから付き合いの長い親友の名前。
    『もしもし?ノースかい?』
    「ドラウス。急にすまない。少し、頼みがあるんだが今いいだろうか」
    『当たり前じゃないか親友。何時どんな時だって君の頼みは大歓迎だ。で?どうしたんだい?』
    「大したことではないんだが……私に、料理を教えてくれ」

    数週間後。シンヨコハマから遠く離れたノースディンの屋敷にクラージィは来ていた。用件は「うちに来い」の一言だけ。相変わらずだなと思いながらも遊びに来れば今度は「待っていろ」と椅子の上で待たされている。膝上で寝転がる使い魔のやわらかな毛を撫でながら待っているとキッチンの方からいい香りがしてくる。彼の得意なスコーンの香りじゃない。何だろうと席を立とうとするが、寝転がっていた使い魔が止められる。どうやら席で待たせておくよう主人に言われているのだろう。仕方ないと大人しく席に座り直すも鼻に香る匂いが気になってしまい落ち着かない。
    「待たせたな」
    ハッと顔を上げれば両手からいい香りのする皿を手にしたノースディンがやってくる。カタンと言う音ともに並べられたのはオムライスに煮込みハンバーグ。
    「ノースディン、これは」
    続きを口にしようとした瞬間、ぐぅ〜と大きく情けない腹の音が響くとクラージィの顔が一気に赤くなって体を縮こませる。今の、どう思われただろうか。行儀が悪い、吸血鬼として情けないだろうか。しかし、ノースディンは小さく笑った。
    「もう少し待ってくれ」
    そう言うと再びキッチンへ向かうも今度はすぐに戻って来た。またしても両手に持った皿をテーブルへ並べるとまたキッチンへと戻っては両手に皿を持って戻って来る。グラタン、から揚げに加えてスープにサラダが並べられる。コース料理以上の品数と量に驚くクラージィだが、その目は子どものようにキラキラと輝いている。対面の席へ座り、料理へ釘付けとなる子へノースディンは笑みを浮かべ手を出して言う。
    「食べていいぞ」
    「え?」
    「腹減っているんだろ。遠慮せずに食べなさい」
    「で、でも」
    「冷めるぞ」
    色々聞きたいことはあるが確かに冷ましては申し訳ないので大人しく手を合わせ、感謝を述べて皿の一つから料理を口にした瞬間、口いっぱいに広がる味にクラージィの目が輝く。よく噛んで飲み込むと次の料理を口に、また飲み込んでは次の料理を口にしていく。次第に口に入れていく量は増えていき、頬袋をパンパンにしたハムスターのような顔になるクラージィにノースディンはまた笑った。
    「まったく。慌てなくても無くなったりはしないぞ」
    「んん……。それはそうなんだが……美味しすぎてつい……」
    がっついたことを恥じんでいるのか、クラージィの頬は薄っすら赤い。用意していた上質の血液ボトルを開け、グラスに注ぎながらノースディンは言う。
    「別に気にすることはない。好きなように食べるといい」
    「で、ではお言葉に甘えて」
    ノースディンからの言葉で再び料理に手を伸ばすクラージィ。気を付けているつもりでもついつい口へ運んでしまい、あっという間にハムスター顔へと戻ってしまう。キラキラした目で料理を頬張る幸せそうなクラージィの顔を見ながらノースディンはグラスの中身を口にする。
    「私はな、クラージィ。料理とは人間の血にありつくための手段でしかないと思っていたんだ」
    「う、ん?」
    「喜ばれようとそうでなかろうと、血にさえありつければ良い。だから食べている相手の顔を気にしたことなど一度もなかった」
    もちろん料理上手なら喜ばれ、多くの血を手にすることができる。だが所詮料理とはスキル、手段だけであり真の意味で人間を喜ばせるものではない。しかし今、自分の作った手料理で幸せな顔を浮かべてくれている。
    初めてだ。誰かの顔ひとつでこんなに、幸せな気持ちになったのは。
    「美味いか?」
    「ん……っ。あぁ、美味しいよ」
    「そうか。ありがとう」
    「こちらこそ。ありがとう、ノースディン」
    にへらとクラージィが笑う。かつて、悪魔祓いとして屋敷にやって来た男の顔とは思えないほど可愛らしく、そして愛おしい子。この幸せな顔を見るためなら何でもしてやりたかった。
    「次は何が食べたい?」
    「ん?」
    「リクエストくらい聞いてやる」
    「リクエストか。そうだな……。なら、今度は私も一緒に作らせてくれないか?」
    「は?」
    「君と一緒に作って、君と一緒に食べるものが私が一番食べたいものなんだが」
    ダメだろうか?なんて聞かれてしまえば答えは一つしかないに決まっているだろ。
    「分かった。次は一緒に作ろう。クラージィ」
    「あぁ。一緒に。ノースディン」

    幸せいっぱいのディナータイム。

    さて、次は一緒に何を作ろうか。



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    🐶やわらかい🐶

    MEMO君たちはどう生きるかを見てきたので、ひとまずの感想を記しました。今後また変わるかもしれないです。(キューブリック作品への言及もあるので気をつけてください)ネタバレ等ありますが抽象的です。たくさんの感想を交換したい作品だと思いました!皆も良かったら教えてね。
    君たちはどう生きるか見に行った日は、今日もしかして観に行けるかも!って急遽思い立ちまして。それで上映まであと30分切ってる時点で空席が5つ残ってるのをスマホで確認して、慌てて最寄りの映画館まで行って券売機で買ったらなんと私がラスト1枚で、ラッキーでしたね。その時点であと5分で映画始まる〜ッ!って感じだったんで慌てて席につきました。もちろん、あくまで上映時間ギリギリってだけで遅刻したわけじゃないので、座席が暗くなってたとかではないんですけれども!幕間の映画泥棒も久しぶりに見たし。最近の映画泥棒はパルクールしてるんですね、笑っちゃった。それで色んな映画の予告編も見たけど、名作シリーズのリバイバルみたいなのが多くて、現実のみならず創作のどん詰まり感に少し複雑な気持ちにもなりましたね。まぁそういう感じで慌てていた気持ちを落ち着かせて見ることになりました。前置きが長かったかと思うんですけど、何が言いたかったかっていうと、結果的にそのくらいの心構えというか、事前情報無しで見たほうが良い映画だったんじゃないかなと思います。
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