我が子の憧れは?幼年訓練所の大運動会は赤組と白組引き分け状態のまま、最終種目を迎えた。
最後の種目は借り物競争とアナウンスが流れるとずっと客席で煩いほどに声援を送っていたギロロの父は持っていたビデオカメラをガルルへ渡すとレジャーシートから立ち上がる。同時に隣で同じくらいの声量で声援を送っていたケロロの父も立ち上がった。
「どうしたんだ親父。もうすぐ始まるぞ」
「わーってるよ。だからこそ、ウォーミングアップしとこうと思ってな」
「ウォーミングアップ?」
「おうよ!」
言うとレジャーシートの後ろで準備体操を始める二人の父親の姿にガルルはなるほどと察するも呆れたように言う。
「借り物競争なんだから、親父達が呼ばれるか分からないだろ」
「いいだろ別に。それに、借り物競争って言ったらあれがあるだろ」
「あれ?」
「“憧れの人”だよ。あいつらの憧れと言えば当然、父親のオレ達だからな!いつでも走れるようにしとかねぇと!なあ!」
うんうんと頷くケロロの父を見てやれやれと思いながらビデオカメラを回すと、競技開始のピストルが鳴った。幼年達は一斉にお題の書かれた用紙を手に中を確認して走り出す。
ギロロ達の姿はどこだろうとビデオカメラを向けて探していると、こちらに向かって全速力で走って来るギロロとケロロの姿が映った。
「良かったな親父。ウォーミングアップは無駄じゃないようだ」
「よっしゃあ!来い!ギロロ!」
「ケロロ!」
走って来る我が子達へ両手を広げる父親達。ギロロとケロロの二人はほとんど一緒のタイミングで腕を引いた。
ガルルの腕を。
「「は?」」
「離せよケロロ!兄ちゃんはオレと一緒に行くんだよ!」
「ヤダね!ギロロの兄ちゃんはオレと行くんだから、ギロロこそ離せよ!」
「ちょ、ちょっと待て二人とも。借り物のお題は何なんだ」
「「あなたの憧れの人!」」
口を合わせて言いながら腕を引き合う二人から隣へ目線を送ると、二人の父親は腕を広げたまま硬直していた。
予想外すぎてどうするか考えるガルルだが、これが競技だということを思い出すと二人に腕を掴まれたまま歩き出す。
「二人とも、このまま一緒に行くぞ」
「「え!?」」
「このまま揉めてたら二人ともゴール出来ずにポイントにならないだろ。それでもいいのか?」
「そ、それは……」
「親父、カメラは任せた」
持っていたカメラを父へ投げ渡し、二人の手を握り直す。
「行くぞ、ギロロ。ケロロくん」
「「おう!」」
キラキラした憧れの眼差しとともにゴールへ向かって走る三人の姿を残された父親達は呆然と眺めていた。
「なんだろうな……息子に負けた、この気持ち」
「前まではお互い父ちゃんみたいになる、言われとったのにな。まさか、お前ンとこの息子に負けるとはのぅ」
「……ハハ」
「ハハ……」
「「ハハハハハッ!!」」
「あらあら、うちの人達は何をしているのかしらねぇ」
「さぁ?」
席から少し離れた場所にてママ友同士話をしていたケロロ、ギロロの母達は肩を組んで大笑いする夫達の姿に首を傾げていた。
結果、借り物競走はギロロ、ケロロが同時着で1位。
ポイントも憧れが同じ人だと熱く語る二人にそれぞれ配られた。
その後、ケロン軍が回していたビデオカメラに涙を流して笑う鬼伍長、鬼軍曹の姿が確認された。
終