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「老温!雪が解けてきたぞ!」
「……。」
「なんだよ嬉しくないのか?…」
「阿絮を世界に取られたくない。」
「……は?何をわからんこと言ってるんだ。」
入口を塞ぐ雪の壁をふたりで見上げる。
確かに壁の表面がしっとりと湿り気を帯びているを感じる。
この閉じ込められた空間にふたりだけ。
本当にふたりだけの世界だ。
向こうの世界で阿湘に逢いたい気持ちも、外の世界で成嶺に逢いたい気持ちもあるけれど、ふたりの音しか聞こえないこの世界を手放したくない。
「日の光くらい浴びたいだろ?日向ぼっこはお前も好きだったろ?」
「僕はずっとしてたよ。日向ぼっこ。」
「外に繋がる抜け道でも知ってたのか?俺に教えないなんて、本当に……本当にお前は酷い奴だよ。」
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