キスの定義 ノック音も響かずに勝手にドアが空いた。夜更けにまだ普段着のナワーブがフードを被ったままドアを後ろ手に閉める。ゲームが長引いたのだろう。
「こんな時間にどうしました」
風呂に入った様子もない彼を寝衣のリッパーがソファから呼んだ。用がなければ彼は滅多に部屋に来たりはしない。寂しいから、恋しくて、などと可愛らしい感情で動く男ではない。だからリッパーは何か用事があるのだと踏んでいた。
「ジャック」
ナワーブがリッパーの隣に座るとソファがゆったりと沈んだ。ティーカップを持つリッパーの腕を掴んだ。するり、とその掴む向きを変えて、リッパーの腿を跨いで向かい合わせになる。少し背の勝ったナワーブがリッパーを見下ろした。
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