ためしためされ 山本さんちのお風呂って足伸ばせるの。
嫌な予感はしていた。いつものように現場仕事を終え事務所で事務処理をしていると、市村が暇そうにやって来て隣の椅子に座り小顔ローラーを転がしていた時のことだ。はあ、とかふう、とかつまらなそうにため息を吐いてスマホを弄りながらコロコロと手を動かしている。あからさまに構ってほしそうな気配を感じたが、営業先とのやり取りで忙しいので無視……もといスルーしていると、物言いたげな視線を右側に感じたので諦めて横を向いて尋ねてやった。
「なに?」
「山本さんちのお風呂って足伸ばせるの」
聞かなきゃよかったと後悔した。こいつは他のメンバーに比べて大人しいかと思いきや、いきなり相談もなく整形したりレッスン前に呑気に銭湯に行ったりする、気まぐれな猫のような女なのだった。三十四歳独身男性マネージャーの家風呂事情を無邪気な十八歳女性アイドルが聞いてくるなんて、悪い展開しか思いつかない。垂れ気味で赤みがかった瞳が俺を見つめている。
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