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    @u_oyue

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    @u_oyue

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    しにがい 紗綾、イクス深酒したイクスに抱かれた後、紗綾は素肌を重ねたまま、つかの間の微睡みを楽しんでいた。
    あと少しでこの愛しい時間は終わる。
    だからこそ、一分でも一秒でも長く触れていたかった。

    普段のイクスなら紗綾に積極的に触れる事は無い。
    普段の紗綾ならこのように素直に素の感情を出す事が無い。
    だからこそ、この幾重にも偶然が重なったからこそおきた奇跡の時間を大事にしたい。
    だけどそれを日常にするのは……

    「……難しいよね……」

    本心を出す事も、それを言葉や態度にする事も……。
    元の世界でも見せなかった。
    更に長く過ごした死神になってからの日々は頑なに本心を偽ってきた。
    そうしないとイクスを殺した罪悪感で心がバラバラになりそうだったから。
    誰にもか弱い自分は見せたくなかった。

    自分が本心でイクスに接すれば変化はあるかもしれない。
    しかし、ずっと自分を偽って過ごしてきた紗綾には、素直に行動出来るのは泥酔した時と今の様に抱かれる時だけしか素直になれないのだ。

    「私が幸せなのは貴方に出逢えたこと。貴方が不幸なのは私に出逢ってしまったことだよね」

    解っているのに離れる事は出来ない。
    そしてイクスも蓋棺録を埋め転生する為に自分から離れる事が出来ないというのもわかっている。

    長いまつげを見ながらそっと眠るイクスの頬に触れる。
    愛しさと罪悪感からくる苦しみでいつも紗綾の微笑みの中から哀しみが消える事はない。
    微笑みながら思う。この人から先程の自分の記憶は消える。
    だから自分は1つでも多く覚えておき、忘れて普通りに行動するイクスの姿に痛みを感じながらも普段通りに過ごすのだ。自戒として。

    この痛みはイクスと過ごす間はずっと忘れることはないだろう。

    「……ごめんなさい……」

    貴方から人生を奪って。

    「そのかわり、蓋棺録が埋まるまではずっと償うから」

    そっと口付けをしてから紗綾はベッドを抜け出した。
    自分からこの愛しい時間を終わらせる為に。
    (終)
    _________________________

    イクスが深酒すると行動的になるか甘えるかという、普段見せない面を見せる事が多い。
    今日は後者で、ダイニングのソファーでDVDを見ていた私の傍に近寄ると膝枕と歌を要求してきた。
    普段のしっかり者、面倒見が良い面と違う私だけが見ている側面に自然と頬が緩み、私は彼の願いを即叶えた。

    「~♪~、~♪~♪」

    真っ白いサラリとした髪を撫でながら請われるままに歌を歌う。
    気持ち良さそうな表情が今のイクスの感情を表現していて、見ているこちらが嬉しくなる。
    どちらか、または2人共酔っていないとこのような穏やかな時間を持つ事がほとんど出来ないのが残念だけど、だからこそ貴重な時間を大切にすることを学べたのだから、感謝すべきことなのかもしれない。

    歌の合間にちょこちょこ雑談もした。
    本当に他愛もない会話ばかりだ。

    「好きな食べ物は?」
    とか

    「何の歌が好き?」
    とか

    「本で1番好きなものは?」
    とか……。

    本当はもう少し踏み込んだ内容も聞きたいが本音を聞いて落ち込む自分を想像すると中々聞けない。
    でも、ぽつりぽつりとイクスの口から生前の話も話してくれたので、ついポロリと一言聞いてしまった。

    「ね、イクスの生前の名前、何ていうの?」

    今まで聞いた事ない質問で少し踏み込んだ質問の1つ。

    彼の持ち良さそうな表情が少し歪む。

    「あまり好きじゃない……けど、お前になら教えても良い……」

    膝の上で寝転びながら私の頬に綺麗な手が伸び触れた。

    そして耳をよせると小さくある名前が呟かれた。それを聞いてクスリと微笑むと、紅玉の瞳が見開き、ムッとしていた。

    「……変な名前だと思っただろう」

    名前に良い思い出がなかったのだろうか、ボソッと被害妄想的に呟いている。
    まったく、なんでこの人は年上だったはずなのにこんなに可愛くて愛しいのだろうか。

    「私が笑ったのは、初めて踏み込んだ質問に答えてくれたから、だよ。どんな名前だって好きだよ」

    そして彼の耳元で本名と好きと呟いてから額と瞼に口付けをする。

    「次のリクエストは何が良いかな?」

    また髪を撫でて声をかけた。
    こんな穏やかな時間が持てるなら今日みたいなジュークボックス代わりも悪くない、と思いながら。(終)
    ______________________
    紗綾はいつものようにダイニングルームでDVDを見ていた。
    長編ものがほとんど貸出中だった為、今日は短めのお話を数本借りている。
    3本程作品を見終わっても睡魔は来ない。
    あと2本見ても寝れなかったらイクスの寝室に忍び込もう、と思ったが、その前にする事があった。
    それはお風呂だ。
    イクスに汗臭いとか言われたら軽く死ねる(笑)
    それだけは回避しようと思いながら風呂場に向かった。


    サー……

    とシャワーを浴びる。
    今日も起きたら仕事がある。
    仕事をする地区と目安をつけていた狩り候補の事前情報を思い出す。
    誰が1番狩りやすい魂をしているのか、事前情報から脳内で確認して順番をつける。

    1人狩ればノルマは終わるが、たまに死に相応しくない魂もあるから紗綾は必ず複数人のチェックをしてから仕事に向かう事にしているのだ。
    どんな理由で死神になったとしても、仕事だけは抜かりなくする、それが紗綾の死神としての矜恃であった。

    風呂から上がり、残りのDVDを見終わると紗綾はイクスの部屋に入る。
    部屋にはほんの少しだけ煙草とイクス本人の香りがあり、紗綾は嗅ぐたびにホッとする。
    ゆっくりベッドサイドに寄ると普段より幼く見える無防備なイクスの姿があり、それを座って何度も眺めた。

    最近は寝ていても紗綾が触れるとたまに反応があり、それを見るのもまた嬉しいのだ。
    ゆっくり髪を撫でながら更に眺めた後に布団に忍び込む。
    毛布の中のぬくもりと人肌の体温が暖かい。
    イクスの胸元に頬を寄せていると寝ぼけ眼の紅玉が開く。

    「紗綾……?」

    そう呟くと軽く微笑み、紗綾の髪を優しくひと撫でしてからまた瞳を閉じた。

    本当に些細な一言、出来事。
    だけど、紗綾には、またこの人に恋に落とされた……と思わすには十分な出来事だった。

    「はぁ……この人は本当に何で私の心の琴線に触れる事するんだろう…」

    だからこそ傍から離れられない。離れたくない。死神になって良かった事はこの最愛の人に出逢えた事だ。

    自分の中にある1番綺麗な感情と1番汚れた感情はこの人の為にある。

    瞳を閉じて強く願う。
    蓋棺録が早く埋まりますように。
    蓋棺録が埋まる日が一日でも長く伸びますように。
    矛盾した願いを願いながら紗綾は暖かいぬくもりに微睡みはじめた。
    _____________

    バレンタインデーに紗綾はチョコを用意していた。
    イクス用のは1粒が1000円単位のブランドチョコだ。
    それを事前予約で詰め合わせにしてもらい、包装してもらったものを昼過ぎに店頭に受け取りに行った。

    他の人達には別の市販店で大量販売している義理チョコを何種類か用意し、全部亜空間にしまっておいた。

    死神省に戻ると目についた友人、同僚に買ってきた義理チョコを配る。
    そして本命のイクスを探すと両手に抱えきれない程チョコを貰っており、紗綾の目の前でも新しいチョコを貰っている所だった。

    (そ……うだよね、イクス……口は悪いけど優しいし……モテるよね……)

    当たり前の事だが、目の前で起きている姿に紗綾はショックを受けた。
    そして取り出そうとしたイクス用のチョコの箱を亜空間に再度仕舞って1人で帰宅した。

    ***
    深夜、紗綾はダイニングのソファーでいつものようにDVDを見ていた。
    傍らにはブランデーと渡せなかったイクス用のチョコの詰め合わせがある。
    紗綾はビリビリと音を立てて包装紙を破り、箱に入っているチョコを1粒つまんだ。

    「……あま……」

    普段チョコを食べない紗綾に渡せなかったチョコは甘く、少しだけほろ苦かった。
    素直に“いつもありがとう、これ、本命チョコだから食べてね“、と言えたら良かったのだが、大量のチョコを抱えたイクスを見たらそれが言えなかった。
    それは手作りっぽい可愛い包装に包まれたチョコの箱も数個混じっているのを見たせいかもしれない。

    「はぁ……あんな可愛く渡したり、手作りの品を貰ってるの見ちゃったら渡せないよ……」

    溜息をつきながらブランデーとチョコを交互につまむ。
    考え事をしながら飲んだせいもあり、少しソファーでウトウトしていると、頭をコツン、と軽く拳で押された。
    振り向くと部屋で寝ているはずのイクスがいた。

    「え?なんで……?」

    聞いた紗綾の隣にイクスが座った。

    「トイレから戻ろうとしたら子供が酒飲んでるから叱りにきた。……それにこんな時間にチョコなんか食べたら太るぞ、これは没収だ」

    そう言ってブランデーとチョコの箱をひょいと持ち上げ、スタスタと部屋に戻って行った。
    パタンと彼の部屋の扉が閉まると紗綾はソファーにパタリと横たわった。

    叱りに、とか言っていたくせに視線も行動も優しくて胸が痛む。
    何でこんなにイクスだけを求めてしまうのだろうか……

    「……イクスのいじわる……どんかん…………うそ。本当は大好き……」

    呟きながら先程のイクスを思い出し、紗綾はゆっくり瞳を閉じた。
    そして薄れていく記憶の中、来年はちゃんと手渡ししたいな、と切に思った
    (終)

    _________

    冥府各所に厳戒令が敷かれた。
    最近不明になっていた冥府関係者が天界の使徒に襲来された、とわかったからだ。

    戦力がある紗綾は破軍に組み込まれ、ここ数日は迎撃場所を他の破軍の死神達と打ち合わせるため部屋に戻れない日々を送っていた。
    そのせいもあり、バディとはいえイクスとも数日会っていない。
    毎日見ていた大きな姿が見えない、それは紗綾の心に空虚を作っていく。
    そして長い長い打ち合わせが終わり、久しぶりに家に帰宅できることになった。

    カチャリ、と玄関の扉を開けると優しく美味しそうな料理の香りがする。
    基本的にイクスがいないと食事を取らない紗綾のために胃に優しい料理を作ってくれていたのだろう。
    そして鍋をおたまでかき混ぜていたイクスが振り返る。

    「おかえり」

    普段とあまり変わらない表情。
    だけど紅玉の瞳が和らぎ、一言だけ告げる。
    しかし、紗綾にはその一言で十分だった。

    ゆっくり近づいて壊れ物に触れるようにそっと自分より大きな身体を抱きしめた。
    そして大好きな人の香りと暖かさをひとしきり堪能したあと、背伸びをして軽く口付けて微笑んだ。

    「ただいま、イクス」

    こうやって戻れた日常が嬉しい。
    彼の傍にいれる、それだけがこんなにも空虚になった自分を満たしてくれる。
    だから、それを壊すものを無くすために戦おう。
    紗綾はぬくもりに包まれながら再度強く決意していた。
    ____________

    天界からの使徒と冥府の死神と秘書官のバディでの戦いは熾烈を極めていた。
    特に地上地区は場所にもよるが激戦区になっており、琥珀(紗綾)とイクスはその渦中にいた。
    仲間達と連携等は取れるが基本的にバディ単位での単独行動が続くうえ、馴染みの浅い仲間との連携をフォローする状況があったり、冥府軍のものは消滅する危険があるのに対し、天界軍のものは撃退しか出来ない状況に冥府軍の誰もが苛立ちや焦りを捨てきれずにいた。

    “キンッ カツーン カン、カン“

    金属のぶつかる音が響く。
    都内の某若者が集まる街の有名な交差点で琥珀は使徒と斬り合いをしていた。
    いつもは名前の由来のような温かみのある黄金色の髪と瞳は仕事や今のような戦闘時には銀色に変化し、少し冷たい印象に変わってる。
    その冷めた眼差しで使徒の剣戟を捉え、剣を弾いて捕縛する。
    ちゃんと捕縛出来ているの確認すると一旦血塗れたレイピアの血をぬぐい、バディのイクスの能力で他の使徒がいる場所へ飛んだ。

    「ごめんねイクス、沢山能力使わせちゃって」

    「緊急事態だからしょうがない、それよりお前の方が危険な仕事をしているんだから怪我するなよ」

    移動している2人だけだと分かる時だけ琥珀の表情が和らいだ。

    「うん、今日頑張ったらイクスのご飯が食べたいな」

    少し荒くなった息を整えながら言うと「頑張ったらな」といつも通りのぶっきらぼうな返事が返ってきた。

    そしてホテルのビルの屋上で新たな使徒を見つけ2人で降りたった。
    今度の使徒は魔法攻撃をメインでするらしく、本と短い杖を構えている。
    琥珀はイクスの少し前に立ち、攻撃に備えた。
    ぶつけられる魔法をレイピアで弾き、斬り、少しずつ捕縛の為に距離を詰める。
    ジリジリとした空気の中、動いたのはメインで動いていた使徒のバディだった。
    魔法を弾いた直後の琥珀の腕に短剣を深く刺さした。
    痛みでレイピアを取り落とし、拾おうと琥珀が屈んだ瞬間に新たな短剣を持って襲い掛かる。
    何とかレイピアを拾って防御をしようとした琥珀の前に黒い影が落ち、強く琥珀を抱きしめていた。

    「イク……ス?」

    後ろにいたはずのバディが目の前にいる。
    しかも胸元に銀色の短剣が刺さっていて琥珀を庇って大怪我をしている。
    イクスの背に刺さった短剣を引き抜こうとしている使徒を蹴飛ばし、その瞬間に捕縛する。
    残るは魔法を使う使徒だが、琥珀を抱えたままぐったりしているイクスを放っておけない。

    「い、いや……っ! イクス、イクスっ!!」

    仕事と戦闘時に取り乱した事がない琥珀が戦闘モードのまま涙をこぼした。
    弱々しい言葉を呟くイクスをゆっくり離し、私怨で使徒を殺めにいこうとする琥珀の服の裾を強い力でイクスが引っ張った。

    「こは……紗綾……俺の事好きって言え、今すぐに」

    イクスの前に座り琥珀は何度も大好きだ、と心の底からの想いを伝える。
    その想いがイクスの傷を癒していく。
    イクスの能力だ。
    相手からの想いが強ければ強い程、高い効果がある。
    それはイクスが受けた想いの受け止め方と5段階の能力の使い方で変化する。その代わり強い能力を使うと能力のクールダウン期間が必要になる能力でもあるが。
    傷が癒えるタイミングで琥珀もイクスの背中の短剣を引き抜いた。
    少しずつ青白くなっていたイクスの顔色に赤みがさしていく。

    「紗綾、ありがとな、この先は“琥珀““アイスドール“として働いてこい」

    珍しくイクスの方から琥珀に軽く口付けると琥珀の背中を押した。
    それを受け、琥珀も落ち着きを取り戻し、2人はまた使徒の殲滅のために動き出した。

    その後の戦闘でもイクスも何度か怪我を負ったが、能力が続いているため、傷を負ってもすぐに回復しながら琥珀の捕縛のサポートをしていく。
    更に何度か使徒を捕縛していたが、支部長のバディ達の交代の合図で琥珀とイクスは次の死神と秘書官に仕事を引き継いで休憩に入った。

    今日の宿に入ると琥珀の銀色の髪と瞳が銀色から黄金色に変わる。
    イクスの胸元に飛びついてポカポカと殴りだした。

    「イクスのばかっ!なんで私をかばって怪我しちゃうのよ!転生する前に死んじゃったらどうするのよ!ばか、ばか~!」

    ボロボロと黄金色の瞳から涙が落ちている。
    そしてポカポカと力なく胸元を叩く手が震えている。
    普段ほとんど泣くことがない琥珀の震える身体をイクスはギュッと抱きしめた。

    「悪かった、次は気をつけるからもう泣くなよ……」

    普段強気な琥珀の弱々しい姿にイクスも慌てた。


    「じゃあ晩御飯はイクスの作るシチューにして」

    「わかった」

    「夜も一緒に寝て……」

    「う……わかった」

    「頭沢山撫でて」

    「……わかった」

    「紗綾愛してるよ、って言って」

    「……言わない」

    「……ちぇ」

    「おい、舌打ちやめろ」

    少しずつ通常運転になりながら、2人の休憩は過ぎていった。
    だが、使徒との戦いは終わりが見えず、つかの間の休息はあっという間に終わり、琥珀とイクスは順調に使徒の捕縛と撃退を繰り返し、戦いの終わりを待っていた

    ________


    使徒との戦闘後に借りている部屋に2人で戻った。
    紗綾は着替えてから食事を作るイクスにまとわりつく。
    普段は邪魔だ、と首根っこを掴んでソファーにポイされるのだが、今日はそれがない。
    見上げて見るとイクスの頬がうっすら染まっていて、抱きついた胸から聞こえる鼓動が少し早い気がした。
    その何気なくも艶のある表情に紗綾は見惚れた。
    自分の見間違い、思い違いでないなら……

    「ね、イクス、私今日頑張ったよ、ご褒美ちょうだい」

    イクスにねだる。
    何を、と言わなくてもわかったのだろう。
    少し躊躇う手が料理から離れ、紗綾の頬を撫でる。ゆっくりイクスの顔が近づいて唇同士が重なった。
    躊躇いがちに開かれた口内を紗綾の方から舌を絡めて口付けを深める。
    長い口付けが終わるともういいだろ、という声が聞こえた。
    しかし、そういいながらイクスの手も表情も紗綾を捉えたまま離さないでいる。
    それが言葉を裏切り本心を示しているようで、紗綾は軽く首を振った。

    「足りない。イクスの全部が欲しい」

    照れ屋の代わりに自分の欲望も交えて伝える。
    今は抑えがきかないから、という言葉を無視して紅玉の瞳が色を含んで濡れるのを見ながら口付けを繰り返しつつイクスの神父服を脱がしていった。
    そしてシャツからはだけた胸元にも口付けをし、指をそっと這わす。
    その度に小さな呻き声と震えが指と唇に伝わってくる。
    紗綾は自分の髪と腰に回された手を握り、片方の手を自分の胸にあてた。

    「抑えなくて良いから、イクスの好きにして」

    耳元で囁くと嵐のような口付けが降ってきた。
    そしてゆっくりと服が脱がされていく。

    長い指が器用に動き、紗綾の弱い部分に的確に触れる。
    躊躇いがちに触れていた手も唇も今は紗綾を強く求めるように身体中に触れていく。

    官能を呼び覚まされるたびに紗綾は広い背中を抱きしめながら小さく嬌声をあげた。

    いつの間にか秘所に潜り込んだ指が紗綾の内部を濡らしていく。
    指から滴り落ちる蜜をペロリと舐めるその姿は普段の草食系男子の見本のような姿から獲物を捕らえる肉食系のものへと変わっていた。
    自分だけを求めるその姿は紗綾だけが見れる特別な姿で、見るたびに胸の奥が熱くなった。

    見惚れているうちに体内に熱い楔が打ち込まれ、堪らずに声が漏れた。
    深い所と浅い所を交互に突かれ、体内から震える。
    何度か体位を変えて行われた律動は最後に少しだけ行動を早め、紗綾の中にその欲を吐き出して止まった。

    どさり、と自分に被さる身体を受け止めながら紗綾は幸せな時間を満喫していた。
    この幸せな時間がまた持てるなら使徒との戦闘も良いな、と思う程、それは愛しい人との幸せな時間であった。
    (終)

    .☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*


    荒い息を吐きながら被さっていたイクスが動き紗綾の横に移動した。
    その胸元に頭を擦り寄せ、瞳を閉じて余韻に浸っていると自分を撫でる手の感触を強く感じる。
    優しく動くその手の感触を楽しんでいると、お腹付近に触れた手がそこでピタリと止まり、じんわりと手のひらの熱が体内にも伝わった。

    「このまま……」

    イクスが小さくそこまで言って続きを言うのをやめる。
    何かを躊躇い、言葉を飲み込んでいたが、お互い何も隔てるものがない情事の後にお腹に手を当てられたら思いあたるものは1つしかない。

    「少し休んだらメシ作るから、風呂入っとけ」

    先程の言葉を消すようにイクスが身体を起こして着替える。
    少し前まで触れあっていた肌が白いシャツに消えていくのを残念そうに見ていると、視線を感じてか紗綾の頭と頬を軽く撫でてから部屋からキッチンへ消えていった。

    1人きりになった部屋で紗綾は裸のままシーツを胸元に引き寄せて上半身を起こす。
    気だるさをそのままに立ち上がろうとすると、体内から先程の名残りがゆっくり太ももに伝う。
    このままでいたい、という気持ちもあるが、食事を作っている白い影を思い出して着替えを持って足早に浴室へ向かった。

    湯船に浸かり、軋んでいた筋肉を解してから耳につけたままの真っ赤なピアスに触れる。
    イクスの血で作られたそれは紗綾にとってイクスを殺した罪と贖罪の証であり、毎日1人で居る時に触れていた。

    「……このまま……何て言いたかったんだろ……ちゃんと言ってくれないとわからないよ……」

    湯船の中で膝を抱えた。
    生前から生きながら死んでいるように感情が動かない生活をしてきた。
    死神になる話をもらい、テストを受けた時も興味本位だけで落ちてもよかった。
    最終試験でイクスを見つけるまでは。

    あの人の心と身体が欲しい。

    その望みだけで死神も続けていた。
    自分が殺したイクスが必ず秘書官になるのを知っていたから。
    だから死神の仕事をしながらずっと彼を待っていた。
    そして今の関係がある。
    だけど、人の心の中までは見えないから、イクスの一挙一動に紗綾の心の中はいつも揺れ動いていた。

    「私の願いを叶えて喜ばす事も、私を絶望させる事ができるのもイクスだけ……」

    だから、紗綾は神様には祈らない。
    紗綾を生かし殺す神様と悪魔の両方を兼ねる人は今キッチンで料理を作っているのだから。

    「今日のご飯、何かな?」

    紗綾は呟きながら浴室から出て美味しい香りが漂うキッチンへ向かった。

    (終)

    _______


    深酒をしないイクスにも抱かれるようになった。

    それは死神になってから初めての激戦を体験したあの使徒戦以降だ。

    ただ、それはイクスから積極的に行われるではなく、私が彼の小さなサインを見逃さず、それを見た後に私の方から彼を求め、それが受け入れられているからだと思う。

    小さなサインは普段とは少し違うイクスの行動だ。
    例えば珍しく背中から抱きしめられたり、一緒にテレビやDVDを見ている時に肩か頭上に凭れる彼の頭であったり、飲み物を飲む時に感じる普段より長い視線等々……。

    けれど、そういうサインがある時のイクスが私を見る表情は、本人が気づいているかわからないが愛しそうな苦しそうな、とても複雑な表情を浮かべている。

    だからサインを見かけたら、時にはソファーに、時にはどちらかのベットに連れていき、私の方から額同士や唇を軽く重ね、行為を求めた。

    その後肌を重ねていくが、いつもそこに言葉はない。
    お互いの息遣いと濡れた音、漏れでる嬌声だけで……。
    2人でぴったり肌を重ねて深く交わっていても、それはどこか祈りや再生を願うような清廉さと静謐さに溢れた行為だった。
    隔てるものがない状態の最後は日により違う。
    時には私の身体の上に撒かれ、時には私の体内に注がれる。
    その行為すら静かであった。

    イクスは何も言わない。
    だから私も何も言わない。そして聞かない。

    これはきっと彼が悩んで悩んで悩んで……そして出せないでいる答えの延長線にあるものだから。

    今日もそんな静かな行為が終わりを告げる。
    重なっていた体温とぬくもりが離れていくのはいつも少し寂しい。
    私にそって毛布をかけ、淡い口付けを一瞬残ししイクスは部屋に戻っていった。
    また食事の時間にはいつも通りに呼びに来るだろうけれど……。

    私は素肌に残るぬくもりが少しでも長く続くよう、強く自分の身体をかき抱きながらゆっくり開いていた瞳を閉じた。

    (終)




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