ヒペリカム(仮)海の中心にて何百年も繁栄存続している孤高の王国、なんて言えばそれなりに聞こえがいいだろう。
蓋を開けてみれば年の半分は入江は氷に閉ざされ、実り豊かな山も土壌もなく、原住民以外は中々に住み着かない国だ。
それでも生活しなければならない。夏の間に採り貯めた海の貴重な資材を元に周りの国から必要な様々な物を取引していく貿易が主な生活収入となっていった。
しかし、四方を海に囲まれた島は遮るものがほとんどない。ひどく荒れる海の日も少なくはなかった。
船が一隻転覆すれば国民が一割死ぬ。そんな大袈裟な話が当たり前に現実になるひっ迫さに守り神と称する縋る象徴を立てるのはもはや必然な事だったんだろう。
この国で稀に産まれるオッドアイの子を船付きの守り神に。彼らの青目は海神様の使いの印だ。
そうやってオッドアイを持つ子達は宛てがわれた担当の船に乗り、冬以外の季節を他国の渡航へと費やす。
冬になれば家族とも一緒にいられるし、訪れた他国の知識を勉強することも出来る、他の人よりもほんの少し豪華な生活も約束されている。
ただ、船から離れることは許されない。
自由さはあるが、レールから外れることは決してできない。してはいけない。
それがこの国で生まれたオッドアイの子の決まり事……右に青、左に緑の目を持つロイの自国の決まり事だった。
「ナカゴ。」
てっぺんにいた太陽が傾き、日差しが柔らかく差し込んでくる集会所二階。
いつものように加工素材を整理し、足りないものがないか帳簿にまとめていたナカゴは相棒、コジリにひそ……と話しかけられ鼻歌を止める。
「来てるニャよ…妖怪暖簾足ニャ。」
くふくふと笑う仕草にあわせて揺れるコジリの髭の先をみると、成程、階段から部屋へと隔てる暖簾の少し奥に見覚えのある脚装備が見えている。
「そういえばそろそろお昼時ニャね。ナカゴ、ロイにも入ってきていいって伝えてあげるニャ。」
話しながら作業台を片付け始めたコジリにそうですねぇ、と相槌をうちながら習って自分の場所も片付け始める。
ロイがこの里に来てだいぶ経つのだが、何故かいつも暖簾の前で立ち止まる。何をしてるのかと思いきや、大体俯いてカチンと固まっている。盗み見た顔は少し赤いような気もしている。これは声をかけると酷く狼狽してうやむやになってしまうのだが。
ハンターなんだから加工屋になんて頻繁に訪れる場所なんだし勝手知ったるで入ってくればいいのに「し、仕事のお邪魔してはいけないと思って…」と彼は言う。
その不思議な気遣いが何か可愛くて面白くて。まだ見ていたくて気づいている事を彼に知らせないでいるからいつしかコジリ達から妖怪暖簾足なんて愛称をつけられてしまっているのだが。
「ロイさん。」
暖簾の隙間から顔を出し、声をかけると案の定な、ナカゴさん!?、と限界まで後ろに飛び下がるロイがいた。毎回のやりとりながらくすっと笑ってしまう。
「はい、いらっしゃい。」