死にたがり電車 狐は駅のプラットホームで電車を待っていた。
素行調査の帰りが夕方の帰宅ラッシュの時間と重なってしまい、駅にはサラリーマンから学生までたくさんの人で混雑している。狐はこの景色が嫌いではなかった。たくさんの人間が存在しながらも、それぞれにスマホの世界に入り浸っていたり、イヤホンで音楽の世界に入り込んでしまっている。
足音だけが言葉のように響く。俯いて歩く人の姿はなぜか狐の心を慰めた。
すっと狐の視界に赤がよぎる。赤い髪色のロングヘアの女性だった。しかし髪色より人目を引くのはその容姿の美しさだろう。整った顔立ちと、意思の強さを感じさせる真一文字に結ばれた唇。この辺では滅多に見ないタイプの美人だった。しなやかな肢体は猫のように油断なく艶めかしいが、同時にこの駅には似つかわしいものではなかった。何よりそこだけ張り詰めたような迫力がある。
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