整然と積まれた紙と本。四方の壁を埋め尽くす本棚。知らぬ者が訪れればこれそのものが迷宮として闖入者を取り込むだろう。
ここは悪魔城の叡智の保管庫だ。
生ける絵画や本に擬態した悪魔などが時折徘徊するだけの、物静かな場所。
アルカードはこの城で生まれ育った。
人と吸血鬼の混血──人の世で人間である母と生きるには種族的特徴が体に出すぎており、城で生きる選択しかなかった。だが、太陽が平気であることなど人の特性は悪魔からも奇異に扱われた。父はそのような目をアルカードに向けることはなかったが、城を継ぐようなこともアルカードに求めない。
そもそも父は存命で今も城主として城の秩序を保っている。母が人として生を終えた後は、人の世に自ら関わることすらやめた筈だ。アルカードもそれに倣って過ごしている。
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