いなり寿司翻弄記! その日は晴れて、朝から忙しくて、気がつけば夕方の4時。高校生にもなった虎次郎が帰宅するには少し早い。
この頃は薫の食事のほとんどは彼が作っていたし、いなり寿司をスーパーの惣菜コーナーで買い込むと叱られることも多くなっていた。そのため、冷蔵庫にはすぐに手軽に食べられるものがない。
「ふむ、食えんな。奴を待つか」
そんな風に顎に手を当てて考えていた薫の目に、閉じかけた冷蔵庫からとある文字が飛び込む。
何かの見間違えかと思って、観音開きの冷蔵庫を大きく開いて確認する。だが、間違いない。
「最高級……油揚げだと……」
こんな良いもので俺にいなり寿司を作るつもりか。このふっくらもちもちの見るからに美味そうな厚みのあるきつね色の美しい油揚げで。
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