はなび 夏祭りのひとごみの中を通り抜けて、花火の観覧席にたどり着いたころには、合歓ははじめての花火大会に、少しはしゃいだように、饒舌になっていた。
「お兄ちゃんって、器用だよねぇ。浴衣の着付けもできちゃうんだもんね」
「やろうと思えばなんだってできるっつの」
「うんうん。料理も掃除も得意だもんね。すごいね」
「ほめたって何もでねぇぞ」
「見習わないと思っただけだもん」
「……別にいいっつの」
今日で、合歓は12歳になった。
親が死んで、ふたりで暮らしはじめた。やれる仕事をやって、ようやく合歓にふつうの生活をさせてやれるようになってきた。
飯を食わせて、清潔な環境ですごさせてーー自分が想像できるふつうの生活というものを合歓に与えるために、なんでもした。外では汚い仕事をして、家では家事からなんでもした。全然苦ではなかった。
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