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    habitus671

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    habitus671

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    ねむたん
    12歳の誕生日

    はなび 夏祭りのひとごみの中を通り抜けて、花火の観覧席にたどり着いたころには、合歓ははじめての花火大会に、少しはしゃいだように、饒舌になっていた。
    「お兄ちゃんって、器用だよねぇ。浴衣の着付けもできちゃうんだもんね」
    「やろうと思えばなんだってできるっつの」
    「うんうん。料理も掃除も得意だもんね。すごいね」
    「ほめたって何もでねぇぞ」
    「見習わないと思っただけだもん」
    「……別にいいっつの」
     今日で、合歓は12歳になった。
     親が死んで、ふたりで暮らしはじめた。やれる仕事をやって、ようやく合歓にふつうの生活をさせてやれるようになってきた。
     飯を食わせて、清潔な環境ですごさせてーー自分が想像できるふつうの生活というものを合歓に与えるために、なんでもした。外では汚い仕事をして、家では家事からなんでもした。全然苦ではなかった。
     合歓のためならーーこの小さな妹のためならなんでもしてやりたいから。
    「暑くねぇか?」
    「暑いよ。夏だもん」
     合歓の顔がうっすら赤い。
    「熱中症になるなよ」
    「うん」
     うちわであおいでやり、水分を取らせて、かき氷を食べさせてやった。赤いシロップが、合歓のくちびるを染めていて、浴衣とまとめた髪とで、急におとなびたような気もした。

     日が落ちて、ようやく花火の打ち上げがはじまった。
     ドンっと、大きな音がからだをゆさぶった。合歓は最初、音のたびにびくっとしてたのに、だんだん慣れてきて、空に咲く花を眺めていた。
    「綺麗だね、お兄ちゃん!」
     こんなに近くで見るのははじめてで、目を輝かせて喜ぶ、合歓の横顔をずっと見ていたくなる。合歓が笑ってくれるだけで、心臓がぎゅうっときしんだ。うれしくてせつなかった。
    「誕生日おめでとう、合歓」
    「うん」
     花火の音にかき消されそうで、自分以外の誰にも聞こえていない。家でふたりでいるよりも、たくさんのひとの中にいると、余計にふたりっきりに感じる。
    「来年はお兄ちゃんも浴衣を着てね。おそろいで」
    「仕方ねえなぁ」
    「誕生日じゃなくてもお祭りに来ようね」
    「当たり前だろ」
    「おにいちゃん、ずぅっと、一緒にいようね」
    「……」
     兄妹はずっと一緒にいられるのか。その不安がふいに浮かんできて、言葉に詰まった。言葉の代わりにぎゅっと妹の手を握った。小さい手が握り返してくる。
    「ずっとね」
     いちばん最後の花火があがる。周囲から歓声があがる。どんどん周囲から取り残されて、花火の音と光と煙の中で、合歓が頬をすりよせた。
    「どこにも行かないでね、おにいちゃん」
     行くのはおまえだろ、と喉元まで出かかって、飲み込んだ。飲み込んで、合歓のくちびるにくちびるを重ねた。
     いちごと合歓、甘くてさびしい味がした。
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