人はそれを相思相愛というあの方は随分と柔らかく笑われるようになった。
岩王帝君であった時分に全く笑っていなかったわけではないが、少なくとも声を上げ口を開けて笑うような顔は見たことがなかった。
彼が旧友と呼ぶ故人達であれば、あるいは見ていたのかもしれないが。
3700年続いた重荷を下ろして気が楽になったがゆえか、沢山の趣味をお持ちになった。
花を愛で、鳥を飼い、芝居や講談を聞く。
それらの趣味は人の営みから距離を置く魈には今ひとつ理解し難いものであったが、あの方が心から楽しまれているのであればその生活を守りたいと思った。
千年続く契約として人の世を守るのではなく。
人間はか弱きものゆえに守護してやらねばという庇護心ではなく。
ただただあの方が穏やかに暮らしていけるのならば。
585