ブロークンハート彼氏と別れた。良い男だったが、浮気していた。深津が把握しているだけで5回目だった。
なるほど、この人は本物じゃないな、と思った時に、自分の気持ちももう彼には無いと確信して、別れた。
一年の付き合いだったが、別れた話の直後はそれなりに落ち込んだりして、感傷に浸ったりもしていた。
車を走らせて海辺に来てしまうくらいには。
深津は滲んだ目元を拭う。
夜の海は風が冷たくて、波の音だけがして静かで不気味だった。
「1番あいつに似ていた…」
こぼれた言葉は風に巻き上げられて消えていく。
あいつ、と、1人きりなのにいまだに名前を声に出すこともできない。
この海を挟んだ、大陸の先にいる男。
ずっと、深津の心の中にいる男。
沢北への恋は叶わないのだ。
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