勘違いから始まっとけ(完)いつか、からかってやろうと思った。
いつも女子に囲まれたり告白されたりしている男が、同じ男からキスされたら結構面白いだろうなと思っていた。
だからしてみた。たまたま2人きりだったので。
綺麗な顎をグッと掴んで、薄い頬にむちゅっとキスした。
そうしたら、沢北は「えっ」と声をあげたまま固まって、深津の顔をじっと見つめる。
あれ、笑わないのか。
冗談きついっすよ深津さん、っていつもみたいに。
「ふ、深津さん…」
深津の期待とは裏腹に、沢北はじわじわと顔を赤くして、耳まで真っ赤にして、若干涙目になりながら「……っス」と言った。
酢?
「なにが?」
「…だ、だからぁ、オレ、ほんと……嬉しぃ…っス」
普段の威勢の良さからは考えられないほど小さな声だ。
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