金毛と黒毛 小話4 クラピカは自室でクロロを前に届いた荷物を開封していた。自身で注文した記憶はない。けれどクラピカ宛だとクロロが持ってきたのだ。問題のありそうな荷物であればクロロが排除している筈だ。そう思ってそれなりに大きい段ボール箱を開ければ見慣れない色の布が入っていた。一番上にあった袋を取り出し、開けば透けそうなほど薄く白い布…引っ張り出せばネグリジェの様だ。
幾つか袋を開いて、キャミソール?なのだろうか、それにしては前が下に向かって左右に開いているし、何も隠せ無いほど透けて最早何のための布なのかも分からない。
「な、何なのだ、これは…」
「パジャマと下着だろ。それとも夜着って言った方がわかりやすい?」
クロロが何事でもないかのようにコーヒーを持ったまま隣を通りながら言った。
夜着?これを着て寝るのか?透けすぎでは?夏用か?しかし腹が冷えそうだった。
クラピカが躊躇いがちに箱からのろのろと荷物を取り出しているとクロロが再度傍にやってきて、黒い尻尾がクラピカの腕を撫でた。手入れされた柔らかな毛がくすぐったい。
「お前、流石にそろそろ大人っぽい下着とパジャマにしなよ。ほら、ブラジャーも注文しといた。サイズはちゃんと測ったことないけど多分Aで合ってると思うよ。洗ったら着けてね」
クロロが箱に手を突っ込み、取り出したのはブラジャーだった。黒地で肩紐部分に赤いリボンが着いている。何も気にしていなかったがクロロが同居し始めてから洗濯と掃除は交代でやっていた。だからクロロはクラピカの下着もサイズも知っている。
「貴様、最近通販サイトを見ていると思ったがこんなものを注文していたのか」
「隣で寝てる時、見てても楽しくないし…。どうせ注文するなら俺の好みにしようと思って」
悪びれる事なく言い放ったクロロ臀部に向かってクラピカは尻尾を打ち付けてやった。
クラピカがクロロと見合いさせられたのは数ヶ月前のこと。それまでに飼い主が連れてきた何匹かのヒョウは人を見るなり口説いてくるか、勝手にクラピカへ触れてくるような連中で辟易していた。
ヒョウの中でもクルタ族は瞳の色画変わるほど興奮すると他のヒョウを凌駕する程の力が出る。それをもってこっぴどく振ってきたが、この…クロロと名乗る雄は珍しく弁えていた。クラピカに許しを請い、クラピカに勝手に触れるような真似はしなかった。
隣で寝るようになったのは癪だが、クロロの歌を聴いて眠ると悪夢を見ずに済むのは確かだった。それ故に同じベッドで眠るのを許していたのに、下着にケチを付けてくるとは…。
「金毛だと柄がよく見えるな」
クロロに二度目を食わせてやろうと尻尾に力を入れ、振り上げた所で掴まれた。
チッ…と舌打ちしてクロロを睨むが、今までのヤツらと違ってこの雄はちっとも驚いた様子を見せない。それどころか掴んだ尾を見ながら傍にあったクラピカの飲みかけが入ったコーヒーカップを手にしてコーヒーを啜った。
「掴むな」
尾に力を入れて取り戻そうとするがビクともしない。
「こうやって掴んだ先だけが動いてると、水族館に居るチンアナゴみたいだな」
なんて言われれば、クラピカだって黙ってはいない。
「貴様ッ、私の尾を離せ!」
手を刃のような形にしてクロロの顔目指して突きをしてみたが、髪の毛を何本か奪っただけで終わる。
「危ないなあ。それにさ、この下着早く洗った方がいいよ。今日のごみ捨てで今クラピカがつけてる下着以外捨てたから。明日からノーパン、ノーブラで過ごしたいならいいけど。あと今日の下着も着替えたら捨てるから」
「は?」
はい、どうぞ。なんてクロロが尾を放したのでクラピカはすぐさま下着を入れている棚を開けた。今朝着替えた時にはあったはずの下着が無い。本当に捨てたのか、棚の中は空だった。
「貴様ッ!」
「ちゃんと洗濯ネットも一緒に買ったから。使わないとワイヤー型崩れするぞ」