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    okyanyou3

    okyanyou3あっとぽいぴく

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    okyanyou3

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    お題、爺ニウェと若ニウェがLFで出会ったらどうなるか

     織代のおわす教団より遠く離れた地。
     そこに、とある國があった。いくつもの氏族がオゥルオの地位を巡って争い、その下の民は戦に駆り出され、戦のためにと収穫を奪われ、戦の中ですり潰される。それが当たり前となる、そんな國であった。
     誰もが倦み果てるほどの長い戦は意外なかたちで終わろうとしていた。

     ある日、男がやってきた。
     始まりはそれだけだった。

     戦に明け暮れるヒトビトが気づいたときには、男は不満を持つ民をまとめ上げ、一大勢力を築いていた。
     反乱軍。
     突然の、しかし身から出た錆とでも言うべき事態に混乱する戦場で、反乱軍の長は高らかに宣言した。
     ――この地に新しき國を建てる。
     ――皇は、この、余である。
     当然、この國を我が物と思うヒトらは怒り狂った。反乱軍を討伐せしめようとした。そして悉くが返り討ちに遭った。反乱軍――いまや新皇軍とでも言うべきか――の勢いは留まるところを知らず、とうとうかの男は長らく空位であった玉座に腰掛け。

     そして今。瞬く間に手にした皇の座が瞬く間に崩れ落ちてゆくのを、渋い顔で眺めている。

    「――」
     落城の混乱と喧騒を余所に、男は燃え盛る炎の先を睨み据える。
     まだ若い男だった。この地に現れたときには、僅かな手勢と得物の長刀以外には何も持たぬ流れ者であった。そんなモノに縋るほどこの地の民は絶望していた。そんな民をすくい上げ武器を取らせ血みどろの勝利を得る程度には、彼の将としての力は確かであった。
     それが今やこのざまだ。
     男の鋭い目が、人影を捉える。
     悠然と進み出る影は僅かにひとつ。手勢を失いひとりきりの男が言えた義理ではないが、あまりにも無防備ではなかろうか。
    「貴様か。余の國を落としたのは」
     苦々しい呼びかけに「然り」しわがれた声が答える。
     敵軍の将は、老人であった。
     髪は白く、長刀を握る手には深い皺が刻まれている。しかし全身から精気が立ち上るような、一種異様な雰囲気があった。
     勝負はついたとはいえ、敵軍の大将の前にたったひとりで現れる。その傲慢、その不遜。
     敗戦の将はフンと吐き捨て、
    「あの愚図共の元にかような将が残っていようとはな。ぬかったわ」
     老人が率いているのは、この國に元あった氏族らの残党である。今や死に体の、長く相争っていた兵がひとつにまとまるなど有り得ないと油断していた。男は自らの落ち度にほぞを噛む。
     老人が髭に隠れた口の端を上げる。
     笑う。
    「恥じる必要はない。ワシがこの地を踏んだのはつい先日、知れぬとて無理もなかろうさ」
    「……ほう?」
    「不思議に思う必要はなかろう。貴様もそう・・なのだからな」
     客人マレビトよ、との言葉は奇妙に楽しげであった。
    「この國の者は狩るにも値せぬオルケばかりだが、イヌとしては使えぬこともない。尻尾を振る相手を見定めるはよき走狗よ」
    「大口を叩くではないか、老体」男が嘲る。嘲ると同時に、さりげなく長刀を我が身へと引く。「雇われの、族滅寸前の連中に泣きつかれただけ・・の、客将の分際で」斬る。その、準備に入る。「――まるで皇の如き口ぶりよな」

    「――カカ」

     がらり、と何処かの建物が焼け落ちる。熱風が吹きつける。

    「それは我が身を振り返ってか? 小童わっぱ

     挑発、と気づくのと、刃の噛み合う甲高い音とは同時。男の若々しい躰が老いた腕に弾かれ大きく距離を取ったのはその直後。
     相手の話を聞くより先に斬りかかった不作法者が、すう、と目を細める。
    「おかしな言い草よなァ。余が、皇ではないと?」
     冷えびえとした敵意を、殺意を、老人は平然として受け止める。男の生み出す『風』などそよ風も同然、とでも言いたげに。
    「皇とは何ぞや」
    「……」
    「國を盗れば皇か? 城を持てば皇か? 民を治めれば皇か?」
     否。
     否、と、老人は高らかに叫ぶ。愉しげに。とてもとても愉しげ、に。
    「皇とは――國を我が物とするもの! 臣も、民も、國の全てを我がものとし用いる者!」
     國を豊かにしたければ民を用いて地を耕せ。
     戦をしたければ兵を用いて侵略せよ。
     放蕩を望むなら國の財を食い潰しひたすらに享楽に耽るがいい。
    「自らの欲に國を用いる、それが皇、皇にのみ許される法悦よ。
     さて、小童。貴様は・・・どうだ・・・?」

     國を作る。
     皇に為る。
    「その先を持たぬわらべが皇なぞ、片腹痛いわ」

     嘲弄に男は沈黙し――「年寄りの話は長い」
     怒号と雄叫びとが二人きりの場に雪崩れ込む。
    「ニウェ様! 御無事ですか!」
     決死の勢いで走る配下――おそらくは最後の生き残り――に目もくれず、男は老人へと打ちかかる。
    「敵将ぞ!」
     頭上から大きく振り下ろす袈裟懸け。刃止めで勢いを殺される。腰だめに引いての突き。長刀の柄ではたき落とされる。一気に距離を詰めての肘打ち。喉元を狙う腕が取られ、老人とは思えぬ力で捻られぐるんと天地が入れ替わる。狂った平衡感覚で捉えるのは刃のきらめき。握ったままの長刀を無理矢理橫薙ぎにし胴へと当てる。倒すには至らぬ威力は僅かに地面を転がる時間を稼ぐ。
     ――気持ち悪い。
     配下の放った矢が長刀のひとふりで落とされる。
     ――気持ち悪い。まるで、
     悲鳴が迸る。配下の兵より。突然、『まるで待ち構えていたかのように』現れた伏兵から矢を射掛けられる断末魔。
     ――まるで、全てを知るてのひらで、玩ばれるかのような。

     如何とする。
     老人が嗤う。
     國を、皇を望む男は、この窮地を。

    「老体」
     男は。
     ニウェは、目の前の老人を睨み据えたまま告げる。
    「問いの答えは『次』にとっておこう――命ある者は余に続け! 撤退よ!」

     敗戦の将が一騎討ちの場から味方入り乱れる戦場へと飛び込む。血飛沫が上がる。強引な突破を凡百の兵では止められぬ。あっという間に切り裂かれた陣を小さな集団が突き抜ける。
     追撃に、ひとり、ふたり、進むごとに削ぎ落とされ、それでも頭は無事のまま、彼らは敵陣を突破した。背後では、ほんの束の間居城としていた城が燃えていた。
     ぐったりと座り込む配下を置いて、ニウェは炎に目を眇める。
    「大変でしたねえ、ハイ」
    「貴様か。とうに寝返ったかと思うたがな」
    「そんなそんな、商人は信用が第一ですので、ハイ」
     何処からともなく現れた胡散臭い商人にも毛筋ほどの動揺を見せず、「脱出路は用意してあるのだろう。案内せよ」無造作に命じる。
     商人は腰低く頷いて、
    「それで、國取りはどう致します? 一旦お止めになりますか?」
    「戯けたことを抜かすな。一度や二度のしくじりで立ち止まって、何が皇か」
     傲然と答える瞳には燃える城が、そこに居るであろう将が映っている。
    「……気に入らぬ」
     気色悪さを吐き捨てる。
     気に入らなかった。童呼びも、伏兵を一騎討ちの際には出さなかったことも、わざと逃がされたことも。気に入らぬから、
    「次まみえる時には、必ず殺す」
     皇としてかの将の前に立ち、必ずや打ち倒す。
     ――逃がしたことを後悔させる。
     轟々と燃え盛る玉座を、ニウェはひたすらに睨みつけていた。


     それから数日後の話である。
     反乱軍を壊滅せしめた老将は、雇い主らから散々に褒め称えられていた。雇い主――氏族の長らはひとしきり称賛の言葉を贈ったのち、戻ってきた國をどう切り分けるかの話し合いへと移り、
    「下らぬ」
     客将の言葉にぽかんとした。
    「貴様らに國を治める器無し。この後は余が使うてやろう」
    「な」「貴様、何を……?!」「ぎゃっ」
     悲鳴が上がる。血飛沫が上がる。氏族の長の半数が斬られ床に転がり、残る半数は裾が血に汚れるのも構わず膝をつく。或いは顔に恐怖を湛え、あるいは新しい主への恍惚を浮かべ。

    「ニウェ様、我ら一同、貴方に忠誠を誓います」

     血臭漂う空間にて、老人は傲然と笑い、空席へと腰を下ろす。
     老人はかつて皇であった。身ひとつで迷い込んだこの地にても國を盗ることにし、成功した。皇に成った。
     皇とは、國を統べる者
     皇とは、國を我が物とし、用いるモノ。
     老人には欲しいものがあった。國を用いるだけの、國というエサを用いてはじめて手に入るモノを、この地で見つけた。
     ――育て。
     ――育てよ、雛よ。
     ヒトを喰らえ。國を喰らえ。喰らい尽くし、その先を得たならば、

    「ワシの國を喰らいに来るがよい」
     カカ、と笑いが漏れる。最高の獲物を誘うには、最高のエサを。
     そして、その時こそ、最高の狩りを。

     居並ぶヒトビトを見下ろし、新しい皇は笑う。嗤う。その心を誰も知らない。
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