🏨で襲われる💢下の平君「君下…久しぶりだな。ちょっと付き合え」
「ゲッ平…!」
今やプロになった平が、一高校サッカー部員の俺に会う理由も必要も可能性もないと思っていた為偶然会った、運が悪い、と一瞬思いかけたがそんなわけはないと思い直す。
コイツには本当に碌な思い出がないせいで事実を脳が受けつけなかった……。
この男はどうやら俺を待ち伏せていたらしい。
どこから嗅ぎつけたのか、プロチームの下見で泊まりに来ていた俺のホテルにわざわざ来たのか。
2年の桜高戦の後2チームからスカウトされたが、聖蹟が優勝した後俺をスカウトした男は君下家の家庭環境を聞いていたようだ。始めから費用はこちら持ちなので、遠いが一度チームの見学に来ないかという話だった。願ってもない話だった。すぐ予定を合わせて遠出して来たというわけだ。
見学は終わり、明朝ホテルを出るだけになっていた。残りの時間はホテル生活を堪能して、親父への土産でも見ようと階下に向かっていたところで先の展開となった。
コイツが俺にわざわざ会いに来るんだ、碌な理由じゃない。選手としてなら戦ってみたいがそれ以外は願い下げだ。
俺は即座に逃げた。
「相変わらずだな君下、そう怯えるなよ」
だが、前と同じようにあっさり捕まる。
「クソッ離せ!またからかうだけだろ!何言われたって俺の答えは同じなんだよ!」
「いいから来い。抵抗するな」
そう言われ項を掴んでいた平の手に力が入る。このゴリラなら片手だろうと俺の首くらいどうにでも出来るだろう。下手に抵抗して勝てる自信もない。
首も背後も取られている以上、大人しく従わざるを得なかった。
「ここだ。中に入れ。」
首を掴んでいる手に少し力を込められているのに耐えながら廊下を歩き、なんとか平の部屋に着いたようだった。
平がロックを解除する時でも、抜け目なく俺の首を掴んでいる手にさらに力が込められる。
そんなに俺に用があるのか。何の用だ、俺にはない。
平が俺に用があると聞いて思い当たるのは、平と同じチームでプロになった水樹の事だ。あの人は本当に宇宙人だ。パスの要求も「パッ」だの「ペヒョ」だの擬音ばかりで具体的な事を言わない。平が困って高校時代水樹にパスを出してきた俺に問いただしに来てもおかしくない。
ただそもそも水樹の宇宙人ぷりを解読しろと言われても俺にもわからねぇんだよ。そういうのは臼井先輩に聞け。
よって俺はアンタに用はないし、アンタの用も俺には答えられない。解散だ。帰っていいな?
移動中ずっと平が何も話さなかったので現実逃避していたが、部屋のベッドの手前まで来て俺は立ち止まった。もう進む場所がない。いい加減用件を済ませて早く帰りたい。コイツには本当にいい思い出がないんだ。
「おい、俺に用があるんだろ。早く言──」
言いながら、平に首を掴まれたまま振り向きかけた次の瞬間平が動いた。
「〜〜〜!!」
君下には何が起こったのかわからなかった。視界にシーツの白が広がったと思ったら暗くなって息が出来なくなる。数秒遅れて、平にベッドに倒されて掴まれたままの首根っこを押し付けられているのを理解した。
驚いて呼吸が乱れてしまい更に息が苦しくなる。それを訴えようにもこの状態では、音がこもって言葉が明確な音になる事はなく、必死の抵抗もこの体格差では無に等しかった。
君下が一瞬死を覚悟しかけた時、君下の力が弱まった事に気づいて平が口を開いた。
「お前本当に力がないな。俺は片手で押さえつけてるだけなのに全力で抵抗してその程度か」
そう言って平が君下の首から手を離す。窒息寸前だった君下は顔を背けて酸素を求めた。
体に力が入らず何か言い返したいのに呼吸を整えるので精一杯で、視線だけ平の方へ向け睨みつける。
「そんなんじゃサッカー以外でも敵わないだろ。
……いや、いつも戯れてる大柴とかいうヤツがいたな。ソイツとは五分五分だったが…手加減されているんだろう」
「!!
はっ、うるせぇな、アンタには関係ない、っだろ、アイツはっ──!!?」
息が少しマシになって起き上がろうとしかけた時、手を掴まれた。難なく俺の両手をまとめてそのまま後ろ手にロープで縛られる。何処からそんな物出したんだよ。
「おい何縛ってんだ!? 離せよ!!」
「俺にそういった趣味はなかったんだがな。まあなんだ、お前が悪いな。」
「……は?」
よくわからないがなんだかヤバい事はわかる。…いや最初から全部ヤバかったが。
とりあえず無茶苦茶な責任転嫁をされた事だけはわかった。