雨模様(または風邪)ざあざあと雨の音が聞こえる。
体調の悪さを加速させるようなそんな音だ。
だが、晴れた日に寝込むよりもこういう日に一日中寝ている方がまぁましであるとも思う。例え雨が降ろうが雪が降ろうが日々の営みに変わりはないのだから、こんな日でよかったかもしれない。
そう思いながら、肥前はうすぼんやりとした意識の中で微睡んでいた。
本丸にきてから1ヶ月半ほど、季節は梅雨から夏に変わりかけの時期。
暑くなったり雨が降ったりを交互に繰り返す日々が続いたせいで調子を崩し、そのまま内番やら戦闘やら南海の面倒やらをみていた疲れが溜まりにたまり、肥前は人の身を得て初めて熱をだし寝込んでいた。
刀剣男士といえど人の身であり、疲れは感じるし風邪だってひく。
本丸では以前も何振りかの刀剣男士が風邪を引いたり熱を出したこともあり、比較的肥前への対応は早かったため大事には至らなかったが、それでも布団に押し込められてからグッと上がった熱に皆が彼のことを心配していた。
彼のことを気遣い見舞いや世話をする刀は限られており、そのうちの一振りの足音がいつもよりもずぅっと静かに部屋に近づいていることを察し、肥前は気怠げに扉の方に目線をやった。
しばらくすると音をほとんどたてずにすぅーっと戸が開いた。普段はいくら注意してもスパーーンと開けるくせに、やればできるじゃねぇかと舌打ちしたかったが、うまく口の中が動かず、ただぼんやりとそちらの方をみていたらバッチリと目が合った。
「肥前の」
普段よりも小さな声。
それでも、雨の音に負けずに肥前の耳にすんなりとその声は届いた。
陸奥守はいつもの笑顔はなりをひそめ、心配そうな表情で後ろ手で戸を閉めて肥前の方に近づき枕元に座ると、手に持ったお盆をそうっと床に置いた。
肥前の額に貼られた冷えピタに手を伸ばし「もう熱くなっちゅう」と言ってそれをそうっと剥がして数時間ぶりに外気に晒された肥前の額に触れると、そこは数時間前と変わらず熱が下がっていないことに陸奥守は若干顔をしかめた。
「今、貼りかえまどくれ」とだけ言って、お盆にのせてきた新しい冷えピタを肥前の額に貼ってやった。