ある平凡な男のはじまり “平凡”な男だと、よく言われた。
それを自分で特に不幸だとは思わなかった。
憐れむように、蔑むように、言う人は多くいたけれど、結局人は“平凡な幸せが一番”だと……そう言っていたのは母だっただろうか?
ただその笑顔が暖かかったことだけは、よく覚えている。
父も母も至って平凡な家庭に生まれた。
一つ珍しかったといえば、日舞をやる家だったということくらいか……といってもそれも傍流で、お弟子さんも多くなかったから、父は当たり前にサラリーマンもしていて、母も父の少ない収入を支えるために働きに出ていた。
そんな平凡な父から、ちょっと特別な日舞を教えてもらえる時間が俺は好きだった。
顔も頭も別に特別なところは何もない俺だったけど、真面目に取り組めばそれなりの実力はつくもので、周りの人から褒められることも増えていった。
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