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    kishi_mino

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    kishi_mino

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    田舎の夏の話が書きたくなって導入だけ書いた。このあと豊前はお兄さんの家に通いまくって友達になるし、お兄さんに初恋する

    【ぶぜまつ】小六の夏休みに出会ったお兄さんの話 隣の家に、若いお兄さんが住みだしたらしい。
     らしい、と曖昧なのは、隣の家はなにせ百メートルは離れていたし、本当ならば高齢のおばあちゃんが一人で暮らしていたはずだし、こんな田舎には若いお兄さんなんているわけがないからだ。
     実際、豊前が両親に聞いてもそんな若い男は知らないと言っていた。もし村の人なら大人が知っているはずだから、豊前はその噂は誰かの嘘が面白半分に広まっているんだろうと結論付けて、しばらくそんな話を忘れていた。
     しかし、豊前は見てしまった。
     それは学校からの帰り道。夏休みに入るから、と学校の荷物を持って帰るように言われていた。習字セットや絵の具セットの袋を抱え、体育着の入った袋や上履きの袋がランドセルに揺られて暴れるのを邪魔に思いながら、うんしょうんしょと休み休み運びながら家へと向かう途中。もうすぐ家だ、と安堵を覚え、荷物を一旦置いて、ふう、と汗をぬぐった時だった。その時豊前が立ち止まったのが、その家の前だった。
     二階建ての古い日本家屋。一階は縁側がいつも開けっ放しだったが二階はどの窓も締め切ったままだったと記憶していた。しかし、その日に限って二階の部屋の一つの窓が開いていたのだ。その部屋は電気を点けていないようで、外から見ても部屋の中が暗いのだろうと想像ができた。身長の小さい豊前の目線からは部屋の様子までは見えない。けれど、普段閉ざされていた秘密の部屋が開いている、というだけで、少年の冒険心はくすぐられてしまい、しばらくぼうっとそこを眺めていた。
     すると、部屋の中で何かが動いた。カーテンの揺らぎかと思ったがそれにしては違和感がある。もしかして、お化けかもしれない……と小学生らしい想像力を働かせていると、お化けの正体はあっけなくわかった。
     若いお兄さんだった。でも、肩の上で揃えられた長さの髪が女性にも見えた。豊前は、いけないものを見てしまったような気がして、どきりとして固まった。目を逸らすべきか、相手が部屋の中へ消えるのを待つべきか、豊前は咄嗟に判断が出来なかった。
     太陽の熱が、じりじりと豊前の肌を焼いていく。熱い。早く帰りたい。でも目が逸らせない。お兄さんは窓に手を掛け、閉じようとしていた。その時、お兄さんが不自然に手を止めた。下からじっと見ていた豊前の視線に気付いたのだった。
     豊前は、みつかった、と思ったけれども、咄嗟に手を振ってみせた。どんな相手でも友好的に接し、クラス全員を友達にしてしまうのが、豊前という子供だった。
     お兄さんは確かに豊前に気付いていた。しかし、しばらく固まっていた。だが、少し、ほんの少しだけ、手元を上げて小さく手を振ってくれたのだ。
     それが豊前には嬉しくて、お兄さんが窓を閉めてカーテンを閉め切ってしまうまで、ぴょんぴょん跳ねて手を降り続けた。ランドセルが死ぬほど重い事も忘れていた。
     豊前は重い荷物もなんのそので走って家に帰った。お母さんに「あのお兄さんいたよ!」と報告した。お母さんは信じてくれずに「お化けでも見たんじゃないの」と言った。お父さんも同じだった。
     だから、豊前はあのお兄さんと友達になろうと思った。お化けじゃない事を絶対証明するんだ、と思った。本当にお化けだったとしても、豊前はお化けの友達が欲しかったので、絶対に、絶対に友達になるんだ、と誓った。
     
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    kishi_mino

    DOODLE田舎の夏の話が書きたくなって導入だけ書いた。このあと豊前はお兄さんの家に通いまくって友達になるし、お兄さんに初恋する
    【ぶぜまつ】小六の夏休みに出会ったお兄さんの話 隣の家に、若いお兄さんが住みだしたらしい。
     らしい、と曖昧なのは、隣の家はなにせ百メートルは離れていたし、本当ならば高齢のおばあちゃんが一人で暮らしていたはずだし、こんな田舎には若いお兄さんなんているわけがないからだ。
     実際、豊前が両親に聞いてもそんな若い男は知らないと言っていた。もし村の人なら大人が知っているはずだから、豊前はその噂は誰かの嘘が面白半分に広まっているんだろうと結論付けて、しばらくそんな話を忘れていた。
     しかし、豊前は見てしまった。
     それは学校からの帰り道。夏休みに入るから、と学校の荷物を持って帰るように言われていた。習字セットや絵の具セットの袋を抱え、体育着の入った袋や上履きの袋がランドセルに揺られて暴れるのを邪魔に思いながら、うんしょうんしょと休み休み運びながら家へと向かう途中。もうすぐ家だ、と安堵を覚え、荷物を一旦置いて、ふう、と汗をぬぐった時だった。その時豊前が立ち止まったのが、その家の前だった。
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