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    kishi_mino

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    学パロアンソロ進捗。前半にモブ目線の話があり、後半に豊前目線がある予定。後半部分をちらっとだします。

    「ねえ、僕たち、付き合ってるらしいよ」
     松井が突然、そんな事を言いだして、俺は少し動揺した。
     松井は机の上の問題集と睨み合っていた。俺は明日提出の課題を終わらせたので、今日発売の漫画雑誌を開いて読んでいた所だった。
    「誰が言ってたんだ?」
    「知らない。そういう噂になってる」
     松井の背中に問いかけたら、簡素な答えが返って来た。松井は依然として黙々と目の前の問題を解いている。彼の家は毎日自習を数時間行うという決め事があり、居てくれるだけでいいから、と言われて俺は松井の部屋で彼の自習がひと段落つくのを待っている所だった。
    「……まあ、違っちゃいねえけど」
     この関係は秘密、のつもりだった。特に、松井の両親には。
     松井は、両親に品行方正であれと厳しく躾けられてきた。門限を少しでも破れば家に雷が落ちるし、テストの点数が悪くなろうものなら一週間友達と遊ぶ事を禁止され、成績が落ちようものなら娯楽を全て没収された。
     医者と看護師の間に生まれた彼は、将来を医療関係の仕事に就くようにと昔から言われ、勉強漬けの日々だった。そんな松井が親にも言えない弱音を吐くのは決まって俺の前だけだった。
     人気の漫画の話もできない、ゲームも買って貰えない、スマホを触る時間まで高校生になった今でも制限されている松井は、小学生の頃から友達をなかなか作る事ができなかった。俺を介して何人か友達を紹介することもあったが、学年が分かれ、学校が分かれると、行動を制限されている松井は新しい友人についていけなくなってしまった。
     松井は、心配になるくらいに俺に依存している。事実、俺が居なくなれば松井を支えるものは何もなくなってしまう。もし今、俺が松井から離れることがあったら、彼は立ち直れないほどにダメージを受けるだろう。
     それだというのに、俺は、松井が一途に俺について来る事が嬉しいと思ってしまうのだ。松井にとっての一番は俺。何があっても真っ先に俺を頼ってくれる。松井は俺以外の誰かに靡くことはないし、盲目的に俺を信じ切っている。
     誰かの一番になる事が嬉しいと思ってしまう。信頼されているとわかって嬉しくなってしまう。甘える姿は俺しか知らないんだよなあ、と思うと、誰にも見せたくなくて松井を独占したいと思ってしまう。
     幼い頃にはわからなかったこの心が、恋と呼ぶのだと気付いてから、俺たちは秘密裏に付き合いだした。大学受験のためにと娯楽を全て没収されてしまった松井は、そのストレスが溜まれば溜まる程、俺に甘えてくるようになった。
     最近は特に、松井はご不満のようだった。いつもは、俺か松井の部屋で一緒に過ごしているだけで良かったのが、学校に居る間も、その帰り道も俺に触れたがった。俺は可能な限り松井に応えたくて、誰も居ないタイミングを見計らったり、人通りが少ない場所を選んだつもりだったのだが。
     俺たちの関係が知れ渡ると教師の耳に入って親に連絡が行くかもしれない、それが一番に恐れていることだ。しかし、それはもう既に噂になっていたなんて。
     学校で甘えるのしばらくやめとく? とも言えない。長い付き合いだからわかるが、松井は最近調子がよろしくない。ストレスが溜まっているせいだろう。ここで松井に我慢を強いると体調にまで影響するだろうし、次のテストで点数が悪くなったら、それこそ付き合っている事がバレてなくても俺との接触が禁止させられてしまうかもしれない。
    「まーつ」
     二人きりの時にしか使わない呼び方で彼を振り向かせる。僅かに眉尻が下がり、泣きたいと言わんばかりの目でこちらを見てくる。
    「勉強は後にしようぜ」
    「でも」
    「おいで」
     松井はこの言葉に弱い。俺が両手を広げて見せると、松井はふらふらと椅子から立ち上がって俺の胸に飛び込んできた。俺は松井を捕まえて、そのまま一緒にベッドへと倒れ込む。
     互いに顔が見えるように向き合って、髪を撫で、肩から腕、背中をよしよしとさすってあげると、松井は気持ち良さそうに目をとろんと蕩けさせる。潤んだ瞳は、熱を持ってこちらをみつめていて、もっと甘えたい、と言っているかのようだ。
     可愛い。可愛くてたまらない。いとしくていとしくて、仕方がなくって、触れるだけのキスを、額に、頬に、手に、指に、あちこち残していった。
    「だめ……」
    「どーして?」
    「我慢できなくなっちゃう……」
    「我慢を溜め込むなっていつも言ってるだろ?」
     言いながら、俺は松井の制服に手を掛けた。だめだというなら、俺のこの手を止めるべきなのに、松井はされるがまま、俺に脱がされていく。
     唇を塞いで、シャツのボタンをひとつひとつ外していく。手を肌の上に滑らせて、これから気持ちいいことをするのだと松井に解らせるかのように、布と一緒にわざと肌に触れて、焦らして、焦らして、衣服を取り去っていく。口付けている間、肌を触れられた松井は、喉の奥を鳴らして小さく呻いた。時折、口が離れると、そこからは荒い息が零れてしまって、互いに興奮しているのだとわかって、もう止められないな、と思った。
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