恋は下心、愛は真心「なぜお前は俺を先輩と呼ぶんだ?」
と、聞いてみたのはほんの気まぐれだ。
役付きではない俺を役職で呼びようがないのは理解できる。だが同様の他者に対し、サギョウは敬称付けの名前を用いて呼び掛けている。
それらと俺の間に画されている、ように見える一線。
何か理由があってのことなら知ってみたいというほんの少しの好奇心からの質問だったのだ。
だから、
「嫌なんですか?」
と質問に質問で返されて少々面食らった。
……何か気にでも障ったか?
「……嫌ではないが、他にお前が先輩と呼んでいる相手を知らない」
真っ向からぶつかるサギョウの視線、その出どころは半分ほど瞼に隠れている。
そして少しの沈黙の後、それは小さな、ため息にも似た吐息とともに隠された。
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