ふわふわ ふるる 部屋に、先輩が来ると、空気が変わる。
ふわっとする。
だから眠っていても分かる。
そして、ただでさえ心地よい微睡みが、僕をゆっくり溶かしきってしまう。
そうなる前に、と、目を開けると、先輩は決まって
「起こしてごめん」
と、眉尻を下げるから、いつからか僕は眠ったままのふりをするようになった。そうすれば、先輩は僕の髪を撫でてから、寝る支度をして、そおっと隣に来てくれるから。
だから今日も、僕はふわっとした空気を感じて、眠りの底から少しだけ浮かべた意識で、髪を撫でられるのを待った。
期待どおりに触れられた手、だけど──
いつもより、冷たい。
ああそうか、もう夏の終わり、だからかな。
ぼんやりと思った、僕の頭から、手はいつまでも離れない。
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