「好きだ」
なんて望んでいなかった。
ただせめて、今よりももっと後になっても、
「そんな奴もいたな」
と、思ってもらえる程度、記憶の片隅に残っていられたら、それでいいと、漠然と考えていた。
それなのに。
目の前の想い人は、僕がとっくに捨て去って、振り向かないようにしていた望みを、ぶつけてきた。
怯えているような、悲しそうな、苦しそうな、痛そうな──
恐怖、に、染まった、双眸で。
どうして、が、いくつも頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合った。
どうして僕なんだ。
どうしてあなたなんだ。
どうしてそんな、今にも、泣きそうな、くせに、僕から目を逸らさないんだ。
何をくだらない冗談を、と、そうでも言って笑い飛ばせと声がした。
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