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    Dochi_Kochi28

    @Dochi_Kochi28
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    Dochi_Kochi28

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    アトルガンの秘宝のネタバレ並びに「特定のシーンのIF展開」が含まれています。
    パラレル作品が苦手な方は閲覧にご注意くださいますようよろしくお願いします

    #FF11

    「隻眼の獅子」  

    「あいたたた。」

    急ごしらえの右腕の「代わり」が悲鳴をあげる。なじむまでに半年はかかる、と言われた。それでも最近やっと動かせるようになった。

    右側が真っ黒の視界には、随分慣れた。代わりに自分の「普通ではない」聴覚に救われた気もする。右目の代わりに右耳が「目」になってくれている、とでもいうのだろうか。おかげでこの大通りを人にぶつかることなく、今、歩けている。

    馴染みの茶屋で、いつも通りにチャイを二杯。最近開発された試作品の保温容器に入れて貰う。それから、いつものイルミクヘルバスも注文した。今日はいつもと違って、持ち帰りだけれども。


    「よう、若いの。いつものお嬢ちゃんはどうした?」
    「今日はちょっと。仕事が忙しくて。」

    チャイの入った保温容器と、イルミクヘルバスの入った包みを提げて、元来た道を戻る。
    帰ったら、また整備を頼まないといけないな。
    整備中、また物珍しさにやって来ないと良いけれど。

    「オートマトンをみてるから、平気だもの!」
    出来上がったばかりのこの義手を、綺麗な宝石みたいな目をかがやかせて、あちこちみられたのは、その、控えめに言って心臓に悪かった。不謹慎だけど、彼女の顔が近すぎて、可愛すぎて。

    不思議なことに、ひと月前、あれほど大騒ぎだった白門の町並みは今や、何もなかったように、いや、むしろ他国からの商人で賑わいつつある。特に野菜の品ぞろえが増えた気がする。サンドリア方面の葉物野菜だとか、ウィンダス方面の玉ねぎだとか。最近僕自身も街中の露店で売られているラテーヌキャベツ、とかいったかな・・・あれの千切りをはさんだ新作のバルックサンドが気に入っている。

    もちろん、僕自身は「ただで」生き延びたわけではなかった。


    あの時,大勢のマムージャに囲まれた瞬間。僕は命と引き替えにあの人を冒険者に託した。

    けれど、その冒険者は自分の仲間たちの安全を確保するや、すぐに引き返し、乱戦の中、傷だらけになった僕を連れて逃げ延びて見せた。追ってくるマムージャの嗅覚を欺くために、僕自身がもう動かなくなった右腕を囮にしたことも功を奏した。

    そんな訳で、無茶苦茶な冒険者との生還劇の代償は右腕一本と片目。

    もちろん、不滅隊としての僕は死んだことになった。

    とりあえず運ばれた宿屋の中で、歩けるようになるくらいまでベッドに縛り付けられた。自己回復のための青魔法は使おうとしたけれど、僕の中の魔物はすっかり姿を消してしまっていた。それでも僕は病床の上から必死に情報収集をして、あの人を助けるために、影から冒険者を助けることにした。

    次に覚えているのは、泣きながら傷ついた僕に向かって謝り続けたあの人の顔だった。
    冒険者が内密に彼女に僕の生存を知らせ、引き合わせてくれたのだ。

    命を投げ出すのは当たり前のことだったと言うのに、あの人は嬉し涙と合わせて、顔がくしゃくしゃになるくらいまで、僕の肩にすがりついて泣いていた。
    僕は大丈夫、だとか、必死にあの人をなだめながら、残った左腕でずっとあの人の頭を撫でていた。

    「貴方が生きていてくれて、本当に、本当に、よかった。」

    涙ながら告げた言葉がまだ残る。

    そして、幻肢の痛みに苦しみながら、厳しくも、優しかった同胞の最期をベッドの上で聞くことになった。自分の意思で人であることをやめ、魔物の体になって戦って、戦場の中で命を落としたらしい。
    涙は不思議なぐらい、出なかった。お互いに覚悟はしていたけれど、それでも胸は痛かった。

    僕は片腕と、片目と、青魔道士としての力を引き替えにして、命を拾った。

    拾った命は、迷わずあの人の為に使うと決めた。
    決めた後、守るための右腕の代わりを貰い、青い戦衣の代わりに、僕は黒い革鎧のついた外套を身に付けて、あの人の背中を守り続けている。不滅隊としての自分は死んだから、公に僕は「聖皇の命を救った傭兵上がりの護衛役」ということになっている。最近「隻眼の獅子」と呼ばれるようになってきたらしい。錬金術師の見立てでは、青魔法を使う分の体が足りなくなってしまったために、青魔法が使えなくなった、ということだ。その分、剣の腕には自信が出てきた。
    アストラル嵐の後遺症で療養中のラズファード様には、会うたび会うたび「お前はまだまだだ」と言われてばかりだけど。

    ラズファード様曰く、僕のこの右腕は「アトルガンの精密機械技術の広告」だそうだ。魔力を介さずに失われた部分を補う技術。それを可能にする精密機械。戦争ではない、新しい「経済」という戦場であの方はアトルガンを支えていくつもりらしい。なんというか、立ち直りが早い、というか鋭いというか・・・。あの方らしい、とは思う。


    約束するよ。アミナフ。
    僕は、貴方の分まで生きて、貴方の代わりにあの人を、アトルガンを守り続けるから。
    青魔道士としての僕はあの時確かに死んだ。

    けれど、僕にはまだ両足も、心臓も残っているから。
    あの人と一緒に歩き続ける。

    そんな僕の小さな決意なんかなんとも思って無いように。

    ひと月前、世界の終わりを告げる暗雲に覆われていたアトルガンの空は、今日も青い。



    「リシュフィー!」

    彼女のお気に入りのチャイを危うくこぼしそうになった僕の気持ちなどお構いなしに、皇宮の扉を勢いよく開けて、彼女は僕に飛びついてきた。

    あぁ。騒ぎを聞きつけた錬金術師たちがこちらを温かいまなざしで見つめているじゃないですか!

    「ナシュメラ様。そろそろ、聖皇らしく、」

    「だって、久しぶりのチャイだもの!」

    はいはい。貴方はここ数日、書類と格闘中でしたね。
    いやだいやだ、と言いながらアヴゼンとメネジンに追い立てられて、貿易協定や関税協定の書類にサインをしていましたね。僕が止めてなかったら今すぐにでも皇宮を抜け出すところでしたね。

    聖皇と呼ばれるようになったけれど、中身は、なんというか、アフマウ様8割、聖皇様2割、と誰かが言っていた…という感じ。だから、甘いものが大好きなのは変わらない、相変わらずの姫様、と言われている。

    だから、正直言うと、この状況は、不滅隊にいた時と変わっていない。変わったことがあるとしたら・・・それはきっと、彼女の意思と僕の決意、ただそれだけだ。
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