冷たい手足でもあたたかくて小さな幸せ俺の手足は冷たくて硬い作り物。
けれども、こんな俺と一緒に笑ったり、泣いたりしてくれる人がいる。
一緒に紅茶を入れて、いろいろな話をしてくれる人がいる。
だから、傷つけないように、俺のせいで痛い思いをしないように、少しずつ工夫して、その人の思いに応えることにした。
手を取って、握ってくれる時は、その手を自分の頬に持っていく。初めは驚かれたけれど、すぐに慣れてくれた。
俺の手では、手のぬくもりは分からないから、頬で『俺は生きています』と伝えて、頬でこの人を感じ取る。
抱きしめる時は、なるべく腕を使って、上半身をくっ付ける。手の力加減が難しいから、手の力は抜く。
こうすると、この人の心臓の音がしっかり聞こえるし、手で傷つけなくてすむからだ。
それから、一緒に抱き合って、愛し合った後に、そっとこの人の顔と、首筋と、胸と、お腹にたくさん口づけをする。
愛してくれた分を精いっぱいお返ししたいから。眠っている間になるべくたくさん口づけしようとするけど、いつも途中でこの人は起きてしまうから、『足りないのか?』と聞かれて、答える間もなく、抱きしめられて、撫でられて、また愛される。
自分なりに細心の注意を払っているのに、いつもこうやって『お返し』をされてしまうのは、その、少し、悔しい。
俺はたくさんのものを、幸せを、両手で抱え切れないくらいに貰った。だから、今残ってる頭と、胸と、心臓でできる限り受け止めて、返すのだ。
一緒に笑って、話をして、それから愛し合うことは、まだ出来るから。
冷たい硬い手足で抱えきれなくても。