ハイヒール・パニック「ん。明日はメンテナンスか。」
「はい。足のメンテナンスに行ってきます」
「足か・・・もう少し色っぽい細さだといいんだがなぁ。かかととかも・・・」
「断固拒否します」
だが、本当にそんなことが起きようとは思ってもいなかった。
ガエリオ様。少しだけ恨みます。
「はーい。終わったわよ。」
いかん。つい眠ってしまった。
メンテナンスは問題なく終わり、帰路に就く。
ただ、なんというか違和感がある。
歩き心地は問題ない。むしろ軽い。
ただ、自分の足音はこんなに高かったかとおもう。
そしてその理由は、帰宅した俺と偶然い合わせたアルミリア様が教えてくれた。
「まぁ。アイン。その義足、とても美しいですわ。」
うつくしい・・・?
そう思って、まさかと思い足をのぞき込むと。
いつもの白と黒の義足ではない。
それどころか赤と黒をベースにした・・・女性の足。しかも踵は女性がはくような細くて高い、ハイヒールとかいうのだったか。そのようなものになっている。
「なっ?!」
落ち着け。落ち着け。俺。
これは何かの手違いだ。
必死に冷静さを装うべく深呼吸をしながら、俺は研究所への番号を押していた。
「あぁ。他のクライアントのパーツがそっちに行ってしまったのね。スタッフが騒いでいたからどういうことかと思ったんだけど、そういうことかぁ。 クライアントの予備パーツだから緊急性は低いわね。次のメンテナンスで返してもらえれば・・・」
冗談じゃない。
1週間以上もこんな足でいられる自信もない。
「速やかに元の足に戻していた
だけますか!」
「あぁ。とりあえず明後日までは無理よ。クールダウンもあるから。 二日くらい外出を控えていればどうっていうこともないでしょう。災難だったわね。」
「わかりました。ただし、明後日、必ず伺います。」
「資料に写真、とってもいいかしら。」
「ダメです」
「減るものでも、」
「ダメです。」
はぁ。端末を置いて思わずため息をつく。
まさかたわいもない冗談が現実のものになろうとは。
仕方ない。明後日の朝に研究所に行くから、そこまでは長い丈のズボンでごまかそう。
そう考えを巡らせ、部屋に戻ろうとした時、今、俺が最も目を合わせたくない人物が背後にいるのに気が付いた。
振り向くと無言でこちらの足元をしげしげと眺めている。
「うむ。やはり似合うな」
しげしげ、を通り越して、満面に笑みを浮かべながら、ガエリオ様が俺の両足を見つめていた。
「あまり、その、見つめられても困るのですが。」
「そうか?」