たんぽぽみたいなあいつと、冷たい花 初めにあいつを見たとき、タンポポみたいなやつだな、と思った。太陽みたいな髪の色に、ほっとくと飛んでいきそうな白が印象的だった。うちの騎士団にも「蒲公英」の名を持つやつはいるが、もっと違う印象だ。
もっとも、異国からの旅人であるなら、「警戒対象」。
あやしい真似をするようであれば、この国に害をなすようであれば排除する。
監視と、観察。俺が今までやってきた、当たり前のことだった。
そこから、風魔竜を撃退した、という話を聞いて、間近であいつを観察することにした。剣術もできるし、元素の扱いもそこそこだ、と分かった。何より「目」がなくてもあれだけ戦える。
つまり、こいつは「面白く」て「使える」。使えるのであれば、もう少しコミュニケーションをとるか。はじめはそんな気分だった。
けれど、それを崩してしまう出来事があった。
しくじった。軽くはあるが、右腕を切り付けられた。幸い外套でごまかせるから、いつものように、帰還し、報告書を先にまとめる、と言って部屋に戻る。そのつもりだったのに。
「まって」
タンポポ頭が呼び止める。
「ガイア、ケガ、してるよね。」
「おいおい、あんな奴に「貰う」ほど俺は・・・」
「手当。しよう?」
いらない、と言おうとした俺の手を握りしめ、絶対に引かない、という頑固な目をして、あいつは首を横に振った。
消毒、止血、傷口の保護。
たどたどしくも、包帯を巻いていくあいつの手つきには、懸命さと気遣いが見えた。
「いつ、俺がけがをしているって気が付いたんだ?」
「町に戻ってきた時。風が吹いて、マントの下から血が見えた、から。」
「さすがは後輩。大した観察力だ。」
そういって茶化す俺の前で、また、黙り込む。
「・・・ガイア。」
「どうした?そんなかしこまって。」
「今度から、怪我したら、ちゃんと言ってほしい。」
いつもだったら、ハイハイ。と返事をして終わりだったのだけれど。
あいつと同じ、一度言ったら絶対に引かない炎のような目つきをしていたから、もう、だめだった。
「・・・わかった。」
この瞬間、俺がいつも通りに引くことができていた「境界線」を踏み越えてくるやつが、2人に、増えた。
それからしばらくたった後。
今度は風邪で、熱が出た。気づいた朝に熱さましは飲んでおいたのだが、昼前になって、だるさと熱がぶり返してきた。頭も重くて、これは厳しいか、と書類仕事の手を止めて机から頭を上げたところを、あいつと団長代理に見つかってしまった。
控室のソファに放り投げられ、山盛りの毛布を掛けられた俺は観念した。
最近料理人の友人ができたらしく、腕を上げたあいつが「おかゆ」とかいう料理をもってきて、食べさせて、しまいには俺が薬を飲むところを見るまで動かなかった。
「もう、大丈夫かな。また、くるね。」
無意識だった。そう言って部屋を後にしようとするあいつの手を、俺はつかんでいた。
出て行け。いかないでくれ。
近寄るな。そばにいてくれ。
手を放せ。このまま手を握っていてくれ。
相反する二つの感情がごちゃごちゃになって、悲鳴を上げる。
どうして、いつも通りにできない?いつも通りに隠せない?
わからない。
胸の中が、おかしい。寂しい。熱い、冷たい。
目から、涙がこぼれていた。
そんな俺をあいつは何も言わずに抱きしめて、頭をなでてくれて、背中をさすってくれた。そういえば、義父さんにもこうやって、熱が出たとき、大丈夫だ、とあたまをなでてくれていた、な。安心した俺は、そのまま眠りに落ちていた、らしい。あとからあの時、大変だったんだよ、とあいつの口からきいた。
口止め料を兼ねたお礼は、酒場のアップルサイダーと料理たくさん。それと、あいつの笑顔だった。
笑顔がまぶしくて、あたたかいあいつ。
泣かせないために、守るために、どんなことだってしよう。
眠り込んでしまったあいつを酒場から背負って運びながら、俺はそう思っていた。