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    varow89

    @varow89

    男と男の関係性が好き 女と女 男と女も

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    もろはのナイフ 今は昔。いつのことだったか、ユリウスがなにがしかの祝いにとプレゼントをくれたことがある。

    「色々と迷ったんだがね、実用的なものにしたよ。一回くらいは形ある物を贈らせてほしかったんだ。君は物にとんと執着しないから」
     そう言って差し出されたのは、ヤマブドウの実のような深い紅色のベルベットを張られた細長い木箱だった。銀色の細い刺繍でブランドロゴと「常にあなたと共に」といったような企業文句が流麗なラインで施されている。まるでジュエリーボックスのようだ。アルベールはひそかに口の端を引き攣らせた。
     親友の言うように物にさして頓着しないアルベールだが、それでも間違いなく高価なものだと長めの毛足の布地から察することができる。目利きがさほど得意ではない己をも萎縮させる程度には、その箱はズシリと重たかった。
     親友の表情を伺うと、彼は曖昧な微笑みを返した。親友のやわらかな微笑みはいつも底が知れず、何も推し量ることができない。どうぞ、と肩を竦めたユリウスに促されるままに蓋を開けると、果たしてそこには両刃の刀身が煌めく銀のナイフとその鞘がシルクのクッションにきちんと収められていた。コレクションにしてはシンプルだが、ただ携帯するだけの護身具よりは華やかな、綺麗なダガーだった。聖別されているようで、凛とした冴えた空気をまとっている。手に取ってみれば、なるほどこの重さは剣を握るこの手によく馴染んだ。
    「これは︙︙いや、とても良い物だ。ありがとう、ユリウス」
    「喜んでもらえてなによりだ。この鋼は君の雷もよく通すのだよ。ふふ、実を言うとね、この刃の開発には私も少し関わったんだ。君の雷の力をもっと活用できないかとね」
     種明かしをされて肩の力が抜けた。白状してしまうと、見目を持て囃されるアルベールをからかって宝飾品の類を寄越してきたのではないかとちょっぴり危ぶんだのだ。だが、研ぎ澄まされた刃の切れ味は良さそうで、魔物相手の血なまぐさい使用にも耐えそうに見えた。
    「なんだ、そうだったのか。俺はテストモニターというわけか?」
    「おっと、誤解しないでくれたまえ。ちゃんとお祝いをしたかったのは本当さ。︙︙それに、少しでも君の力になりたいんだ。私は、剣の腕こそたかが知れたものだけれど、それでも代わりにペンを走らせて、こうして君の一助となれたら、と」
    「ああ、わかってるさ、ユリウス。これは肌身離さず持っていよう。きっといつか俺を助けてくれる」
    「うん、そうだね。君の行く先の栄光を願っているよ」
     そうして目を伏せたユリウスにもう一度感謝を述べて、二人だけでささやかな祝杯を傾けて、それから、それから。
     贈り物としては護身用のナイフなんてありふれたものだったし、今となってはかつてのユリウスの胸中など知る由もない。けれど、確かにあの時のアルベールはユリウスからの厚意をとても嬉しく思ったのだ。こっそり目を熱くさせたほどに。

     だから。
     アルベールはかつての親友をひたと見据えた。あの穏やかな微笑みは見る影もなく、狂ったように顔を歪めて哄笑している。異形となった彼の身体から無数に伸びた腕に天雷剣を弾かれてしまい、咄嗟に腰に伸ばした右手に触れたのが先のナイフだった。そうして一瞬胸に去来した穏やかなあの時の思い出を、かぶりを振って振り払い、その柄をしっかりと握った。金属の重さが頼もしい。
     彼がアルベールの無事を願い、くちびるを寄せて祈りをこめてくれたそれ。今の今まで、身に付けるだけで草の一薙ぎさえ斬ったことがなかった。それがまさか贈り主に向けられることになろうとは。
     雷の力を込めると短剣は仄かに発光した。雷をよく通し、よく伝え、よく溜めるように作らせたというのは本当だったらしい。その身が壊れる寸前まで力を蓄えてビリビリと震えるナイフを全力で投擲する。ユリウスの気が一瞬そちらに向いた隙に天雷剣へとまろび出て、星の力を秘め星晶獣も断つという剣を取り戻す。そうして再び向き合った。

    「力を得ることは自由になることではない!」

     ユリウスは覚えているだろうか。その目に形ある物を捉えただろうか。なあ、あの時お前は言ったんだ。この刃が君の苦難を払いますように、と。
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    recommended works

    和花🌼

    DONE夏祭りワードパレットを使用したリクエスト
    7 原作
    ・帰り道
    ・歩調を落として
    ・特別
    ・あっという間
    ・忘れられない

    暑苦しいほど仲良しな二人を楽しんでいただけたら嬉しいです。
    夏祭り 7(原作) 夏祭りといえば浴衣を着て、友人や家族、それに恋人なんかと団扇で顔を仰ぎつつ、露店を横目で見ながら、そぞろ歩きするのが醍醐味というものだ。それに花火も加われば、もう言うことはない。
     だが、それは祭りに客として参加している場合は、である。
     出店の営業を終え、銀時が借りてきたライトバンを運転して依頼主のところに売り上げ金や余った品を届け、やっと三人揃って万事屋の玄関先に辿り着いた時には、神楽はもう半分寝ていたし、新八も玄関の上がり框の段差分も足を上げたくないといった様子で神楽の隣に突っ伏した。そんな二人に「せめて部屋に入んな」と声をかけた銀時の声にも疲れが滲む。暑いなか、ずっと外にいたのだ。それだけでも疲れるというのに、出店していた位置が良かったのか、今日は客が絶え間なく訪れ、目がまわるような忙しさだった。実際のところ、目が回るような感覚になったのは、暑さと疲労のせいだったのだが、そんな事を冷静に考えている暇もなかった。
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