水底の幸福を拾う「村雨、その……明日水族館に行かないか?」
「問題ない。元々あなたと過ごすために空けた日だ」
どこか不安げな様子で尋ねた獅子神は、村雨の了承の返事を得て相好を崩した。
明日は休みという夜には村雨は獅子神の家を訪れる。2人が交際を開始してから新しく加わったルーティンだ。夕飯を共に食べながら明日の予定を話し合う。家でゆっくり過ごす場合もあれば、どちらかの希望の場所へ連れ立って出かけることもあるが、今回は獅子神の希望で水族館へ赴くこととなり、村雨は昼食に獅子神の弁当(甘い卵焼き入り)を所望した。
翌朝、村雨はいつもの休みより1時間ほど早く目が覚めた。この時間であれば隣で寝ているはずの男は既に寝床から這い出しており、その分布団の中が寂しくて起きてしまったようだ。寝起きで回らない頭を左右に揺らめかせながらリビングへと廊下を進む。扉を開けると獅子神がキッチンで調理をしているところだった。香ばしい匂いに引き寄せられた村雨は調理中の獅子神の背中に軽い頭突きをしてぐりぐりと額を擦り付けた。
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