Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ミ ミ ノ

    ジャンルもカプもごちゃごちゃ
    2023-11-15 xに投稿した作品の移動が完了?

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 88

    ミ ミ ノ

    ☆quiet follow

    トくんの素顔についてとニアライ前のトくんの妄想

    森を歩いていたトゥーラは川を見つけた。
    といっても、そう大きなものではない。
    トゥーラが一歩で飛び越えてしまえるくらいの幅だ。
    水の勢いもあまり強くはない。
    おそらくは常にあるものではなく、暖かい、春から夏の間だけ―森がたっぷりと水を蓄えている間だけ現れるものだろう。
    トゥーラはしゃがみ、そこから水をすくって飲む。
    都市の人間は金属やコンクリートを使い、自分の生活から少しでも不便をなくそうと、楽に生活しようとして、さまざまなものを作るが、そのようなことをしなくても、森や草原には食料も、飲み物も、寝る場所も―人が暮らす上で必要なものは揃っている。
    もしそれらがなければ、知恵と経験と道具を使い、手に入れるか、作るか、補うかすればいいだけだ。
    たとえば、肉は干せばある程度は保存できるし、水も皮袋を作るか木の実の中身をくり抜けば持ち歩ける。
    そうすれば、しばらくの間はそれで生きていける。
    また、飲み物は別に水でなくても、植物の汁や獣の血でもいい。
    都市の人間は森や草原を離れ、柵の中で生きるうちに、人間として本来持っていた能力を、感覚を忘れ、失ってしまったのだ。
    「……」
    トゥーラは少し歩き、水の淀んでいるところを見つけると、そこへ顔を映した。
    「やはり……」
    思った通り、髪が伸びている。
    自分の見た目には頓着しないが、あまり長いとうっとうしいし、兜の中へしまいづらい。
    縛るのも面倒だ。
    トゥーラは水面に視線を向けたまま、腰のポーチから短刀を取り出そうとした。
    しかし、ふとある記憶を思い出した。

    ―あなたはおじい様によく似ているわ。
    そう言ったのは母だった。
    寝たきりの祖父に母から受け取った食事を渡し、再び母のもとへ戻ってきたトゥーラに向けたものだ。
    トゥーラには自分と、痩せてはいるが、自分よりもずっと背が高く、髪はことごとく白くなり、その顔にいくつも皺が刻まれた祖父が似ているとは思えなかった。
    それはそれとして、トゥーラは祖父が好きだった。
    というよりも、祖父の昔話を聞くのが好きだったのかもしれない。
    だからよく、母が祖父の世話をするのを手伝った。
    祖父はトゥーラに、自分がかつて何千里もの距離を歩み、その途中で、自分の目の前に現れた障害を―自分の進路上にあった国が持つ、優れた城、優れた塔、優れた戦士たちをことごとく破壊し、打ち破ったことを話してくれた。
    そして、トゥーラたちの住むところからずっと遠くにある、見たことも聞いたこともないような国がどんな様子で、どんな人がいて、どう暮らしているのかということも話してくれた。
    トゥーラはそんな話を聞きながら、祖父のことを、自分の一族のことを心の底から誇りに思った。
    いつかは祖父のように、また、祖父の先祖のように、人の思いもよらないことを、人に成せないことを成す強い人間に、偉大な人間になりたいと思った。
    しかし、祖父はトゥーラがまだ幼い内に亡くなった。
    次に父が、その次には母が亡くなった。
    母はトゥーラの目の前で獣に食われた。
    トゥーラは1人になった。
    トゥーラは泣いて、泣いて、泣きつくして、叫んで、叫んで、叫びつくし、涙も声も枯れて、やがて、ぶかぶかの祖父の鎧を着て、重い長刀を持ち、家族と暮らした場所を去った。
    何年も歩いているうちに、鎧はトゥーラの体に合うようになり、長刀を片手で持てるようになった。
    そしてある日、偶然出会った旅人にカジミエーシュのことを聞いた。
    そこへ行こうと思った。
    祖父もかつてカジミエーシュに足を踏み入れたという。
    また、祖父から、ナイツモラの血を引く者の中には、カジミエーシュに根を下ろした者もいると聞いた。
    ここにならば、トゥーラのまだ知らぬ同胞がいるかもしれない。
    祖父がかつて刃を交えたような、強大な騎士に出会えるかもしれない。
    ―そんな騎士に出会えれば、トゥーラのもう1つの―トゥーラの人生において最大の望みも叶うかもしれない。
    「……」
    トゥーラは短刀と、その旅人から受け取った地図をポーチから取りだす。
    そして、その地図を見た。
    それによれば、そろそろカジミエーシュに着くはずだった。

    「ここで、私は……」
    トゥーラは、騎士の国で、自分の一族の過去の一部に触れられるのだと、仲間が見つかるのだと、自分の望みが叶うのだと、そう信じていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator