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    N1m2D

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    いるなる途中

    エアコン壊れた「帰る!!!」
    28℃を越した夏の日、入鹿の安アパートに大声が響きわたる。
    「待って待って、いいやん別に」
    入鹿は玄関前に立つ鳴を気怠げな顔で見下ろす。春頃まで来ていた長シャツを脱ぎ、いつもの(鳴にとっては理解不能な、つまりクソダサい)白Tの袖を捲り上げタンクトップのようにして。
    「全ッ然良くない!なんでクソ暑い中来たのにわざわざエアコン壊れた部屋にいなきゃいけないわけ?」
    「しゃーないやろ。壊れたもんは壊れたんやから」
    「じゃ、俺はエアコンない部屋にはいたくないから帰ったっていいよね?」
    鳴は入鹿をにらんですぐさま踵を返そうとするが、がしっと入鹿がその腕を掴む。
    「なぁ〜久々やろ」
    「知らないよそんなの」
    「…扇風機はあるし」
    むうと鳴の顔が歪む。
    入鹿と鳴はそこまで頻繁に会うことはない。生活スタイルが何から何まで違うためだ。仕事の時間帯も異なれば交友関係も全く違う。互いに気楽に付き合える存在がいる分わざわざ二人で会わなくても私生活は充実している。別にいなくたってなにか欠けるわけでもない。
    でも、ときたま会いたくなって、連絡したら入鹿はいつでも暇で、じゃあと鳴は入鹿宅を訪れるのだ。だから、ちょっと、口にはしたくないが鳴はこの日を楽しみにしていた。
    「それに、アイスもある」
    「やだ。どうせガリガリくんとかでしょ?俺クリーム系じゃないと食べたくない」
    にんまりと入鹿が笑う。
    「あるで」



    「ハーゲンじゃん!どうしたの?」
    冷凍庫の中を覗き込むと冷気が気持ちいい。結局アイスに釣られて上がりこんだ鳴は真っ先にそこへ向かった。
    「あー、近くのスーパーで安売りしとってん」
    へぇ〜と返事はするものの鳴は冷凍庫から目を離さない。入鹿もこんな態度に慣れているため、座卓に座り、先ほどまで飲んでいた麦茶を飲み干した。
    中にはバニラだけでなくストロベリーや新作のアイスが一種類ずつ転がっていた。加えてスーパーカップやよく知るアイスたちがごろごろと並んである。おそらく適当に買ったんだろうなと推測できるくらいにさまざまな種類が並んでいた。
    入鹿と鳴は味の好みも違う。鳴はこだわりが強いが入鹿は鳴ほどではない。そもそもアイス自体も好んで食べない。それでも鳴の好きそうな種類が並んでいるのはおそらく…。と、鳴の頭にふっと考えがよぎったが、なんとなく恥ずかしくなりそうだったので考えることをやめた。
    これならサイダーもあるだろうかと冷蔵庫も開けてみたが、案の定それはなくまあいつも通りだなと食器棚から自分のコップを取りだす。
    鳴は新作のハーゲンを選び、どかっと扇風機の前に座り込んだ。
    「ねぇ、これ首振りないの?」
    「あ、壊れとる」
    はあ?と睨みつけたが入鹿は平然とした顔で鳴と自分のコップにぬるくなりかけの麦茶を注いでいる。
    「アンタ、マジでふざけてる?」
    「いや扇風機はあるやろ」
    「首振れなきゃ涼しくならないでしょ!」
    「うるさいうるさい」
    鳴来るようになってからご近所さんからなんか迷惑ですって言われるようなってんでと、実際はそんなこと一切気にしてませんという顔で入鹿は言う。
    鳴はうっと気まずそうにしながらも、
    「…熱中症になっちゃうかもしれないんだからさ」
    と吐き捨て、日焼け防止に猛暑の中着てきたカーディガンや帽子を床へと散らかした。
    部屋のなかは外よりもずっと暑い気がした。風通しのため窓を開けてはいるものの風ではなく湿気をはらんだ空気ばかりが流れ込み、二人の間にはさまるようにある扇風機も微弱な風しか吹かせない。
    アイスはさっき取り出したばかりなのにあっという間に溶け始め、鳴は慌ててそれを口にする。新作の味は美味しかった。死ぬほど暑いけどこれ食べれるならまあ許してやってもいいかなと思えるくらいに。
    しかしアイスぐらいでは暑さはやわらかず鳴の肌から浮いた汗が首もとや髪をじっとりと濡らす。鳴は肌に張り付いた半袖にしては少し長めの袖をぐっと引き上げた。
    「めっちゃエ…」
    「それ以上言ったら殴るからな」
    睨み一つで発言を静止させてきた鳴に入鹿は不機嫌そうに眉をしかめた。
    「まだなんも言ってないやん」
    「アンタが俺にいだく感想なんて、大体分かんだよ…」
    鳴はあっ…と手を止める。やらかした。入鹿はにんまりと笑い、すぐに食いついた。
    「え?なんて?」
    鳴はさっと目を逸らしたが入鹿はそれについてくる。
    「自覚あんの?自分がエロいって」
    「んなもん、あるわけないでしょ!」
    「でも大体分かんねんやろ」
    「だるいんだけど!語彙のレパートリーが大体同じだから予想がついたってだけだし…!」
    入鹿は鳴の腕を掴み、引き寄せる。
    「言われ慣れてるってことやん」
    ぐっと距離が縮まり入鹿はじっと鳴を見る。自分でも顔が赤くなっていくのを感じた。目の前の男は平然としてにやにやと笑っている。腹立たしいのにその目に見つめられると鳴はどうしても弱い。
    「あ……」
    「?」
    「…アイスを…食わせろ…!!!」
    座卓の下で思いっきり左足を蹴った。予想してなかったのか、入鹿は衝撃に驚きそのままさらに座卓の脚にも自らの長い足をぶつける。
    「いっ、たぁ〜……!」
    「ふん!自業自得だよ、ばーか!」
    鳴はそのまま床に転がる入鹿に背を向けてアイスの残りを食べるためベランダへと逃げ出した。
    セミはまだないておらず入鹿のあ〜とうなる声が聞こえる。アイスはもうほとんど形をなしていない。鳴はちぇっと舌打ちしそれらを掻き込むように食べ始めた。
    中に戻ると入鹿はぶつけた足をかかえこんでまだ転がっていた。鳴はため息をつきながらそれを見下ろす。
    「で、今日何すんの?」
    「えセッ…」
    ドカッ。
    鳴のこぶしが入鹿の顔面に直撃した。
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