春スズ 今思えば、初めから春水さんはおかしかった。ことある事に僕の頭を撫でたり、顎に手を添えてきたり。触れられるのは恋人同士だから当たり前なのかもしれないけれど、それでも彼のスキンシップは少し特殊だった。
今なら分かる。僕はその違和感の正体にもっと早く気付くべきだった。気付いて、すぐに離れるべきだった。meiさんや瀬川さん、綾斗に言われた時点で別れを告げるべきだった。
あの時の僕は愚かで、盲目で。だから、まんまと暗澹たる地獄の底に引き摺りこまれてしまったのだ。糸ひとつ垂れていない地獄の底へ。
映画を見ましょう、と誘われて僕は春水さんの家を訪れていた。モノトーンで統一され整頓されたリビングの中央、百インチはあるであろう大きなスクリーンに激しく血飛沫が舞った。次の瞬間にはゾンビに追いかけられた人間たちが右往左往しており、鼓膜を震わす大きな音で銃声が鳴り響く。
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