HOME SWEET HOME(1)【スミス、家を借りる】
「住んで欲しい家があるんだが、誰か心当たりないか?」
イサミが近所の不動産屋、川田にそう持ち掛けられたのは夏が始まる前だった。
のんびりとした山間の田舎町の半分眠ったような地元商店街。ほとんどがシャッターを閉めているようなその通りにイサミが営む花屋がある。客は大体近所の人で、一番の売れ筋は仏花だ。だが店先には季節の花が並び椅子とテーブルが出されていて、この商店街の中ではちょっとだけ小洒落たここは近所の人たちのいい休憩所になっているのだった。
その日も川田が昼飯の帰りだと言って店に顔を出した。そのまま立ち話もなんだからと椅子を勧め、茶を出し、すっかり寛いでしまった。そんな世間話の流れで出た言葉だった。
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