晶くんを思い出せないブラ晶♂ 髪の色や柔らかさ、目の大きさ、瞳の色、まつ毛の長さ、鼻の高さ、唇の厚さ、首の細さ、手の大きさ、指の長さ、鎖骨の溝、へその窪み、肌の色、撫でると鳥肌が立つ皮膚……。
「クソ。ダメだなー」
胡座を組み頬杖をついたブラッドリーは、ペンで地面を叩いて不規則なリズムを刻みながら独りごちた。目線の先にある日に焼けた羊皮紙には、かろうじてヒトだと分かるような絵が描かれている。しばらくそれを見つめた彼は、再び
「ダメだなー」
と呟き、ため息をついた。パーツごとにやれば惜しいところぐらいまではいけるかもしんねえと思ったんだがな。
身体中にある無数の傷跡とは、もう数百年の付き合いだ。ブラッドリーはそれらを勲章と呼んではいるものの、常に気にかけているわけではない。しかし、上裸になったときに新入りの牢番が目を剥いたり、恩赦狙いの社会貢献中や賢者の魔法使いとしての任務中にしくじって新たな傷をこさえたときなど、ときどき意識が向くことはある。そのとき、決まって思い出す会話があるのだ。
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