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    jab_kyojin

    @jab_kyojin
    ぷぺのえっち絵はここであっぷします

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    jab_kyojin

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    プロペシ小説「Ticket」/ペッシ視点。
    休日にプロシュート兄貴から呼び出されたペッシ。
    それも「交通手段は何であれ切符は2枚買え」と不可解なことを言われる。
    1枚分不要な切符の理由は?

    ―Ticket—


    「……」

    腑に落ちない……。
    そう思いながら、オレはバスの券売機に札を差し込んだ。

    ――スッ

    券売機が5ユーロ札をのみ込み、タッチパネルに5種類の切符が表示される。
    選ぶはバスの1回券、1.5ユーロ。それを2枚。オレの分と、プロシュート兄貴の分だ。

    「兄貴ってば無駄なこと嫌いなくせによぉ~~。もぉ~~」

    休日の今日、兄貴から電話があり、家に来いと呼び出された。しかも、『交通手段は何であれ切符は2枚買え』と意味不明なことを言う。兄貴は家にいるんだから、兄貴分の切符はいらないはずだけど、それを指摘しても『ごちゃごちゃ言うな』と一蹴するし……。
    仕事柄、突然呼び出されることには慣れているし、休日が吹き飛ぶことも気にしない。暗殺チームの〝唐突″には意味があるんだ。それは些細な任務も同じ。些細な任務、されど綿密な構成の一部。そのときには理解できないことも、任務を経て意味を知る。
    仕事はチームプレイだけど、人を殺したことのない下っ端のオレには、パズルのような世界観だ。小さな任務を1ピース、1ピースはめていき、チーム全体で暗殺というミッションをこなしていく。

    ……じゃあ、この不要な切符も大事な1ピースなのかな?

    切符をマジマジと眺めていたら、視界のすみに赤色が入った。思わず顔を上げると、昼の真っ青な空の下をくすんだ赤色のバスが走って来る。
    オレは兄貴分の切符をポケットに押し込み、赤い市バスにヒョイと乗り込んだ。


    ***


    ライオンをかたどった真鍮製のドアノッカーを5回鳴らす。
    週ごとに変わる、兄貴とオレの合図だ。
    兄貴は機械に頼らない、古風なセキュリティ対策を好む。玄関マットの下に乾燥スパゲッティを敷いたり、家の外周にジャリを敷いたり、玄関扉にセロハンテープを仕掛けたり。

    「おう、ペッシ。入れよ」

    玄関の扉が開き、髪を下ろした兄貴が顔を出した。服装は黒のTシャツとブラックデニム。その休日らしいカジュアルな装いを見た瞬間、これは仕事の呼び出しじゃないと悟った。
    仕事面はキッチリした兄貴のこと。休日だろうが仕事であれば、ヘリンボーン柄のスーツを着ているはずだ。
    この呼び出しは仕事じゃない? となれば、ますます不要な切符の意味が分からない。
    オレは部屋の奥へと歩いて行く兄貴の背中を追いかけながら、切符の意味を聞こうと口を開いた。

    「あに……」

    そう言いかけて、部屋に転がる酒瓶の多さに絶句したオレは、兄貴に質問するのも忘れて酒瓶の回収を始めた。

    「もぉ~~~~~お酒の瓶、せめて空き瓶はゴミ箱に入れましょうぜ」

    「オレの〝インテリア″に口を出すな」

    兄貴の皮肉は言い当て妙だ。この部屋に来るたび思うけど、殺風景すぎる。ソファ、テーブル、本棚、テレビといった必要最低限の家具しかないこの部屋からは、兄貴の人柄がみえない。床に転がる酒瓶が、兄貴の人柄を唯一垣間見せる〝インテリア″ともいえる。
    オレはウィスキーの空き瓶を拾い上げ、口を尖らせて言い返した。

    「こんな空っぽの瓶、インテリアじゃない」

    兄貴は振り向き、不機嫌なオレを見るなり片眉をクイっと上げた。

    「何だ? いまの会話にヘソを曲げる要素はねェだろ」

    「空っぽって嫌いだから」

    「何だそれ」

    兄貴のぼやきには気づかぬふりをし、キッチンの棚からゴミ袋を出した。後ろからは「ペッシ」と呼ぶ声がする。振り向くと兄貴は手のひらを返した状態で突き出し、「切符」と言う。オレはゴミ袋を大きく一振りし、ビニールのなかに空気を入れたあと、コートのポケットから兄貴分の切符を取り出した。

    「どうぞ」

    「おう」

    兄貴は受け取るなり部屋を抜け、武器庫として利用している書斎に向かった。オレはゴミ袋に空き瓶を入れながら、大きな声で聞いた。

    「兄貴ー! その切符、どうするんですかい?」

    返事はない。答えるのが面倒くさいか、集中して何かをやっているかだろう。

    「兄貴ってばー!」

    また返事をしてくれない。
    痺れを切らしたオレは、瓶の始末は後回しにして兄貴のいる書斎へ行った。

    「兄貴?」

    書斎の扉からひょっこり覗くと、武器庫の前でしゃがんでいる兄貴の背中が見える。

    「オメーは座ってろ」

    兄貴は振り向きもせずに窓際のソファを指差す。オレは言われた通り座り、首をかしげて武器庫の様子を見た。
    書斎の電気は消えたままだけど、窓から差し込む陽射しのおかげで武器庫がよく見える。
    黒光りした武器庫の扉にはダイヤル式の鍵があり、その暗証番号を教えられたのは、兄貴の弟分となり1年以上過ぎたときだ。あのときのオレは、兄貴から認められたような気がして舞い上がった。
    武器庫の1段目には銃の弾、2段目にはハンドガンとショットガン。3段目には……初めて見た青色の金庫らしきものがある。ダイヤル式じゃなく電子テンキー式だ。

    「兄貴、その青いのも金庫?」

    「まーな」

    やっと答えてくれて、少しホッとした。
    兄貴は長い前髪をかき上げるとオレの隣に座り、「青い金庫はお前のものだ」と言った。

    「オレの?」

    「ああ。暗証番号はここに書いてある」

    兄貴が切符を出し、真ん中の方を指さした。そこにはアルファベットと数字が並んでいるけど、何を意味しているのかは分からない。オレは切符に顔を近づけて意味不明の文字を読み上げた。

    「18A5D3M2……15899762……1146787」

    「全部が暗号じゃねェ。ここ、18A5D3M2だけだ」

    オレは兄貴から切符を受け取り、ワクワクしながら聞いた。

    「何が入っているんですかい?」

    オレ用の武器かな? ついにオレにもハンドガンをくれるのかな?

    「いまは秘密だ」

    「そんな! 教えてくだせぇよ、兄ィ!」

    ワクワクした気持ちは、兄貴の次の一言で瞬く間に消えた。

    「オレが死んだら開けろ。そのときに知ればいい」

    自分の表情から笑みが消えていくのを感じる。顔の筋肉が縮小し、目も唇も萎んでいく。

    「いいな? オレが死んだら開けろ。それまではなかを見るなよ」

    「……兄貴は無敵だから、オレは金庫のなか、一生見られないままだね」

    「ペッシ、オレは真面目に言ってンだ。冗談を言ってるわけじゃねーぞ」

    「オレだって!」

    睨むように顔を上げたら、涙がジワッと浮かんだ。
    兄貴とオレは兄弟分だけど、本当の兄弟じゃない。立場も違うし、性格もぜんぜん違う。それなのにたまに〝思うこと″がシンクロするんだ。
    いつもオレの心に在り続ける恐怖、兄貴の死。
    兄貴も同じように〝死″を感じているから、オレに何かを託そうとするんだよね……?

    「おい、泣くなよ」

    「だって……グス」

    「正直なぁ、困ンだよ、泣かれると。女のあやし方は知っていても、オムツ野郎のあやし方は知らねーぞ」

    オレは手の甲で涙をぬぐい、「最低なあやし方」と言って、少しだけ笑った。

    「いいか、ペッシ。死の瞬間を見慣れると、死が身近な存在になる」

    ……それはすごく分かる。殺しの瞬間は怖いけど、悲しい・可哀想という気持ちはだんだんと薄れてきた。

    「だけどな、死を受け入れやすくなっちゃいけねーぞ。命はしぶといンだ。身体という〝いれもの″は、オレたちが思う以上に生かそうとする。腕を失くしても、脚をもぎ取られても、命まではとられないモンだぜ」

    そう言うと兄貴は少しだけ腰を上げ、ブラックデニムの尻ポケットに手を突っ込んだ。きっとタバコを取り出しているんだろう。すぐ隣からカチッとライターの音がし、ほんのりとタバコのニオイが鼻をかすめる。

    「ペッシ、空っぽなんかねーンだからな」

    兄貴の言葉が胸に刺さった。オレが「空っぽって嫌い」といった意味、兄貴なりに考えてくれたんだ。

    ……空っぽ、それは死であり、兄貴を失ったときの自分でもある。

    そんな心情を読み取ったのか、兄貴は「空っぽはない」と言ってくれた。
    うん、そうだ。空っぽの瓶にも意味があるんだ。お酒を楽しませた結果が空き瓶であり、飲み干してもらえた名誉は、中身が空っぽになっても変わらない。
    オレはソファに横たわり、兄貴の膝に頭を乗せた。

    「おい、灰皿取りに行けねーだろ」

    兄貴のぼやきは無視したまま、切符を陽射しにかざした。

    不要だと思っていた切符が、陽ざしに反射してキラキラ輝いている。
    これは、兄貴とオレをつなぐ大切な1ピースだ。

    どんなラストがあろうとも、オレと兄貴が迎えるのはThe Grateful Dead。
    いまは強くそう思えるよ、プロシュート兄貴。



    END
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    jab_kyojin

    DONEプロペシ小説「Ticket」/ペッシ視点。
    休日にプロシュート兄貴から呼び出されたペッシ。
    それも「交通手段は何であれ切符は2枚買え」と不可解なことを言われる。
    1枚分不要な切符の理由は?
    ―Ticket—


    「……」

    腑に落ちない……。
    そう思いながら、オレはバスの券売機に札を差し込んだ。

    ――スッ

    券売機が5ユーロ札をのみ込み、タッチパネルに5種類の切符が表示される。
    選ぶはバスの1回券、1.5ユーロ。それを2枚。オレの分と、プロシュート兄貴の分だ。

    「兄貴ってば無駄なこと嫌いなくせによぉ~~。もぉ~~」

    休日の今日、兄貴から電話があり、家に来いと呼び出された。しかも、『交通手段は何であれ切符は2枚買え』と意味不明なことを言う。兄貴は家にいるんだから、兄貴分の切符はいらないはずだけど、それを指摘しても『ごちゃごちゃ言うな』と一蹴するし……。
    仕事柄、突然呼び出されることには慣れているし、休日が吹き飛ぶことも気にしない。暗殺チームの〝唐突″には意味があるんだ。それは些細な任務も同じ。些細な任務、されど綿密な構成の一部。そのときには理解できないことも、任務を経て意味を知る。
    仕事はチームプレイだけど、人を殺したことのない下っ端のオレには、パズルのような世界観だ。小さな任務を1ピース、1ピースはめていき、チーム全体で暗殺というミッションをこなしていく。

    ……じ 3542

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