ナニモ ナイ ワタシ「自己愛性パーソナリティー障害?」
「はい、あなたには『己』というものがありません」
先生が、にこやかに意味不明な事を言う。
「どういう事ですか?」
「例えば、あなたの今の”きゃるるん”と可愛い、ラブリーチャーミーなフワフワした服装……こちらをご覧下さい」
先生が、一人の女性が写った写真を見せてくる。
写真の女は、私の髪型や服装と似たような雰囲気だった。私は思わず「何ですか、この人……私の真似でもしているのでしょうか」と呟いた。
「いえ、逆ですよ」
「?」
「“あなたが”、この方の服装や持ち物を真似してるんです」
驚いて、先生の目を見る。
「逐一、この方の真似をしているのはあなたです」
意味がわからなかった。戸惑う私を尻目に先生が言葉を続ける。
「あなたには『自分』がありません。だから「いいな」と思ったモノをとにかく何でも真似する──悪く言えば“奪う”んですよ。それで『私はこんなに素敵』と満足する」
先生がスマホをいじる。
「あなたが毎日SNSに投稿していた『今日の服装』……急に更新が止まりましたけど、何故です?」
先生が私のSNSを見せてくる。
「それは……」
「あなたが猿真似していたこの女性が、あなたからの猿真似被害に気付いて怖くなり『今日の服装』の更新を止めたから、だからあなたも服の更新が出来なくなった。あなたは、自分の頭じゃ『今日の服装』も自信がなくて決められない。人前に出せない」
先生がニコニコしながら言う。
「自分で努力やチャレンジをして服のセンスを磨く事もしない、人の真似をして自分も『おしゃれになった』と勘違いしている」
私は絶句した。私は、真似をした覚えなどない──。
「と、思っているのでしょうが。あなたが無意識に犯罪……とまでは行かずとも大勢の人に嫌がらせをしているのは事実ですよ。……ほら、例えば」
先生は私がSNSにあげた写真を「あなたが『描いた』というこのイラストも、旅行に行ったというこの画像も無断転載……盗用、盗作」と逐一見せてくる。
「先生」私は泣きそうになる。そんなはずはない、そんなはずは──。
「では、私の先生へのこの思いも『誰かの真似』なのでしょうか」
「はい」即答される。
「私の彼女のSNSを見て、そう思い込んでいるだけです……具体的に『私のどこが好きか』説明できます?」
私は何も答えられなかった。