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    Aco9287

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    Aco9287

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    大好きなフォロワーさんのお誕生日に書いたものです。
    ハッピーバースデー、くうたん!

    プレゼントのお返しは この世界での誕生日とは、なかなか盛大に祝うものらしい。
     そして違う世界からやってきた私にもそれは適用されるらしい。
    「ハッピーバースデー、監督生!」
    「ありがとう!」
     今日は私の誕生日だ。オンボロ寮は朝から賑やかで、エースやデュースが中心になってパーティーを開いてくれた。
     ジャック、エペル、セベクと同学年の友人は勿論、関わりのある人たちが代わる代わる来てはちょっとしたプレゼントやお祝いをくれる。正直私は何もしていなくて(だってオンボロ寮にそんな予算は無い)、全部エースやデュースが手配してくれたものだ。
     スタジャンまで準備してあったのだから凄い。
    「ふふ、こんなに盛大にしなくても大丈夫なのに」
     私が嬉しさ半分、申し訳なさ半分で呟くと、デュースがくるりと振り向いて眉を吊り上げた。
    「何言ってるんだ、去年はユウが教えてくれなかったせいで何も出来なかったんだぞ」
    「そーそー、その分もまとめてやんなきゃね」
     エースも口を尖らせるものだから、私は苦笑した。
     先ほども言ったようにオンボロ寮にパーティーを開くような予算は無い。それなのに誕生日を主張するのはなんだかプレゼントやお祝いをねだっているように思えて、去年の私は自分の誕生日を誰にも言わなかった。まあだからと言って隠すのもおかしな話だ。誰かのバースデーパーティーの時に聞かれたので素直に答えたのだけれど、その時に周りから盛大に非難を浴びてしまった。なぜならその時には既に私の誕生日は過ぎていたから。
     なぜもっと早く言わなかった、おかしな気を使うなと怒られて反省したものだ。
    「ユウくん、お誕生日おめでと」
     去年を思い出してエースやデュースと話していると、聞き慣れたハスキーボイスが耳に届く。振り返ればラギー先輩がこちらにやってきていた。私の心臓がどっきんとでっかい音を立てる。
     ラギー先輩は私の想い人だ。告白はしていないけれど、勘違いでなければ多分先輩も私のことを憎からず思ってくれている、と思う。
     ほら、そういうのあるじゃない?何となく良い雰囲気というか、お互いを見る目が甘いような気がするというか。私はラギー先輩が好きで隠すのも苦手だから気持ちがダダ漏れてしまうのは仕方が無いにしても、聡い先輩がそれを許したままにしておくのは多分そういうことなんじゃないかと思う。いや、ラギー先輩だし好意を利用しようとしている可能性も否定できないけど。でもそれならそれでもいいのだ。否定されないだけで嬉しい。乙女心というやつはそんなもんだ。
     何はともあれ、そんなラギー先輩が来てくれたのだから私は嬉しいに決まっている。
    「ありがとうございます、ラギー先輩」
    「シシシッ、スタジャン似合わないッスねぇ。でも可愛い」
    「かわっ」
    「可愛い可愛い、馬子にも衣装」
    「くっ、そっちか!」
     可愛いという単語に過剰反応すると、また先輩が可笑しそうに笑った。こんなふうに揶揄われるのも楽しい。
    「そうそう、プレゼントなんだけど今持ってきてなくて」
    「えっ、プレゼント?来て頂いただけでも嬉しいのに…」
    「いやいや、ちゃあんと用意するでしょ。お返しも貰わないと」
    「成程ちゃっかりしていらっしゃる」
    「お褒めに預かりどーも」
     そういえばラギー先輩ってお返し狙いで色んな人にプレゼントを渡す人だったな。まあ私もラギー先輩の誕生日にはプレゼントを渡したわけだがそのお返しは貰っていない。その頃はそこまで仲良くなかったってのもあるけどね。
     でも好きな人からプレゼントを貰えるのだ。それが何であれ嬉しいことに変わりはない。
    「それで、この後ちょっと野暮用があるんで、そのあと改めて渡しに来てもいい?」
    「忙しいならむしろ私が伺った方が」
    「主役を働かせるのは忍びないんで、そこは待ってて欲しいッス」
    「うっ、そうですね…」
     今日くらい据え膳上げ膳を楽しめと言われて、それもそうかと思い直す。
    「分かりました、待ってますね!」
    「!」
     満面の笑みで答えると、ラギー先輩はちょっとだけ目を丸くして、その後ふっと眦を緩めた。ただでさえ可愛い系のお顔をしているのに、柔らかく目を細めたせいで甘さが増す。
     あ、ほらこういう顔。こんな優しい顔をするから、私は少し自惚れてしまう。
     見惚れていると、先輩は少し乱暴に私の頭を掻き混ぜた。
    「良い子にしてるんスよ、子猫ちゃん」
     パーティー楽しんで、と付け加えてラギー先輩は去っていく。
     その様子をぼーっと見送る私に、近くにいたエースが「御馳走さん」と呟いた。

    ***

     ところがどっこい、ラギー先輩はその後パーティーが終わるまで戻ってこなかった。
    「用事が長引いたのかなぁ」
     人のいなくなった談話室で、ソファですうすうと寝息を立てるグリムの背を撫でながら私は呟く。
     主役は座っていろ、何もするなということで私は終始お喋りしているだけだった。同級生たちが後片付けまで綺麗にやってくれたけれど、何も無くなるのは寂しかったので部屋の飾り付けだけはちょっと残してもらっている。それでもやっぱり少し寂しい。
     エース達に泊まってもらっても良かったかなと私は息を吐き出した。いつもみたいにみんなでお泊り会にした方が寂しくなかったかもしれない。でもラギー先輩が戻ってくると言っていたのが引っかかって、結局言い出せなかった。
     プレゼントを渡しに来るって言ってたけど、もう遅いし来ないかもしれないな。明日渡せばいいやって思っていたりして。
     ぐるぐると考えながら私はグリムを抱き上げた。二階の寝室に向かい、腕の中の相棒をそっと起こさないよう気を付けながらベッドに寝かせてブランケットをかける。
     グリムの寝息が変わらないことを確認して、私はベランダに出た。
    「綺麗」
     夜空には雲が無く、月が綺麗に見えている。夜風は少し冷たいけれど、気持ちのいい夜だった。
    「——こんな外にいたら風邪引くッスよ」
     夜を堪能していると、甘いハスキーボイスが耳朶を打って、夜空と月が遮られた。箒に乗ったラギー先輩が代わりに視界に入ってくる。
     急いできたのか、先輩のビスケットブラウンの髪は少し乱れていた。彼は箒に跨ったままベランダに立つ私の方へと近づくと、ストンと器用にベランダに降り立った。目の前に立った先輩の手が、ふわりと私の頬を撫でる。
    「遅くなってごめん。待っててくれたの?」
     昼間に少し見せてくれたのよりずっと柔らかな顔をされて、私の頬に熱が集まる。夜のせいなのかなんなのか、ラギー先輩の纏う空気はしっとりとして甘い。
     まるで恋人にするみたいなそれに、鼓動が速くなる。
    「だ、だって待っててって先輩が言うから」
    「うん、そうッスね」
     優しい瞳を向けられると落ち着かない。
     どきどきと心が暴れ出しそうだ。
    「でもパーティー終わっても来ないから」
    「……うん、寂しかった?」
    「さ、びしかった」
    「そっか、ごめんね」
     何、この会話。ばくばくとうるさい心音を聴きながら私はラギー先輩と言葉を交わして混乱する。
     寂しかった、なんて。そんなことを言って許される関係に私達はまだないはずなのに、どうしてだか言葉が唇から零れてしまった。けれど先輩は凄く嬉しそうに瞳を細めてこちらを見ているからそれ以上何も言えなくなる。
     心臓はおさまる気配を見せない。
    「プレゼント、渡しに来たんスよ」
     戸惑う私を余所にラギー先輩はポケットから何かを取り出す。
     しゃらりと軽やかな音を立てて目の前に差し出されたのは、ネックレスだった。シルバーの細いチェーンの先に、雫型の石が一つ、ぶら下がっている。その石は少し灰色がかった蒼で、ラギー先輩の瞳と同じ色をしていた。
     美しい煌めきに目を奪われる。
    「わあ……」
    「石はオレが錬金術で作った奴なんだけど、上手く出来たでしょ?で、石があるのはいいもののネックレスに加工すんのがなかなか上手くいかなくてさ」
    「もしかして作ってくれたんです?」
    「…そういうこと」
     先輩は照れたように頬を掻き、私の手のひらにそっとネックレスを置いてくれる。手の中にあるその石は、月光を吸い込んでキラキラと反射していた。
     どうしよう、すごく嬉しい。まさかこんな素敵なものをもらえるだなんて思っていなかった。私はチェーンを摘まんで、灰蒼の石を眺める。とても、とっても綺麗だ。
     本当にラギー先輩の瞳みたい。
    「こんな素敵なもの、頂いていいんですか?お返しどうしたら良いんだろう」
    「お返しはそれを受け取ってくれることッスね」
    「え?」
     受け取ることがお返しって、どういうこと?
     ラギー先輩に視線を戻すと、先輩は困ったように眉を寄せて、ふう、と一つ深呼吸をした。
    「その石の色、何色?」
    「ら、ラギー先輩の瞳の色…?」
    「正解。そんなもんを贈る意味、分かります?」
     分かるかと言われて、私の脳みそは一瞬停止する。
     贈る意味。自分の瞳の色を、アクセサリーにして贈るその意味は。
     ぼん、と音を立てて、私の顔が真っ赤に染まった。
     そもそもアクセサリーを異性に贈ること自体、友人とか親しい間柄じゃないとやらない。ましてや自分の瞳の色となると、それはつまり。
    「……分かってくれたみたいッスね」
     気付けばラギー先輩の頬も少し朱に染まっていて、私は口をパクパクと魚みたいに口を開け閉めした。
    「まあ、気付いてたとは思うけど。……アンタが好きッス」
     はっきりと言葉にされて、私はますます固まってしまった。
     好き。今、そう言った?本当に?
     何となくそうかなと思ってはいたけど、改めて言われると胸がギュッとして、苦しくて息が止まってしまいそうだった。
    「だからそれを受け取ってオレのものになってよ。それがお返し」
     ふわふわとしていた曖昧なものが形になる。とうとうそれが来たんだと、私はともすれば止まりそうな息を、ゆっくりと吐き出した。
     ラギー先輩のものに。なってもいいんだ。
     もう一度私はネックレスを見つめた。少し灰を混ぜた青は真っ青なそれよりも柔らかくて、ラギー先輩が私を見る時と本当に似ている。こんなに素敵なプレゼントが他にあるだろうか。
     私はネックレスを首にかけた。その様子を食い入るように見つめるラギー先輩に視線を真っ直ぐ合わせる。
     しゃらりと胸元に雫型の煌めきが触れた。
    「どうですか」
    「……うん、似合ってる」
     嬉しそうに微笑む先輩につられるように笑うと、目尻に嬉し涙が溢れそうになる。
    「誕生日おめでとう、ユウくん」
    「ありがとう、ラギー先輩。……大好き!」
     その言葉を合図に、私はラギー先輩の胸に飛び込んだ。
     今日のこの日を、忘れることはないだろう。先輩の腕の温もりを感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。



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