隠し子騒動 里にも安寧と平穏が訪れ、観光や流通目的で訪れる者が多くなったころ――事件は起きた。
ウツシがいつものように見張りをし、一度報告のためにと里に戻ってきた時のこと。自身の大事な愛弟子に挨拶をし、さてフゲンの元へと思考し始めたと同時に、足元に何かがぶつかってきたのである。
「ととさま!」
「……ふぁ?」
すわアイルーかと思ったのだが、足元を見れば五歳ほどの男の子。黒い髪に金色の瞳を輝かせ、ウツシを見てとんでもない発言をしたではないか。
「いや、あの、待って……」
「ととさま! ととさま!」
「ちょっと待ってー!」
状況を整理しようにも、子供はウツシを父親と呼び続けている。慌てて自分の愛弟子を見れば、彼女はこてりと首を傾げるだけ。
「まな……でし……」
これはどういう意味なのだろうか。とウツシが答えを出す前に、そっと子供に「母親の元に帰りなさい」と促した――のだが。
「やっ! ととさまといる!」
「だからー!!」
まさかの拒否である。
思わず涙目になりつつも、改めて少女を見れば納得したように一つうなずいた。
「なるほど、教官のお子さんなのですね」
「ちがーう!」
「でも、その子教官に懐いていますし
なにより教官の年齢であれば、そのくらいのお子さんがいてもおかしくはないかなと」