愛弟子の様子が、どこかおかしかった。
大好きなおままごともやらなくなり、大事にしている人形もどこかに仕舞い込んでいるらしい。おまけに恰好も今までの愛らしい着物ではない、男の子が着るようなものを身に着けているではないか。
そして、時折大きな瞳を悲しそうにうるませて、こちらを見てはすぐに黙り込んでしまう。一体どうしたのだろう。
普段から天真爛漫を絵にかいたような、可愛らしい少女だというのに、今は陰ったお日様のようだ。
ウツシは疑問に思ったまま、屈んで少女と目線を合わせる。
「どうしたの? 愛弟子
最近、おままごともお人形遊びもしていないみたいだけど……」
「ん……」
少女に優しく疑問を投げかけると、彼女は眉を八の字にして、こちらを見た。何か言いかけては口を閉じるから、これは言いたくないのだろうと考えて、少女がうまく話せるようになるまで根気よく待った。
やがて観念したのか、おずおずと聞こえてきたのは、少女らしからぬ弱々しい声。
「……ハンターになるなら、お人形遊びも、可愛い恰好もしたらダメだって……」
それは――
「一体誰が言ったの?」
「……」
思わず出た強い言葉に少女の身体が震える。慌てて違うんだと抱きしめてやれば、彼女の小さく細い腕がおずおずとウツシの首に回った。そのまま彼女を抱き上げて背中を叩けば、涙を浮かべた少女は小さく名前を呟いた。
それは、つい最近里にやって来た行商人の娘だった。気が強く、ウツシに一目ぼれしたのか、常について回っていたのを思いだす。あまり相手にしなかったせいか、彼が大事にしている少女に矛先が向いたらしい。はたから見たらただの意地悪なそれは、少女にとって絶望だっただろう。大事なものを否定されるのは誰だって悲しいのだ。
「大丈夫だよ、愛弟子」
だからウツシは晴れやかな笑顔を浮かべて、少女の頭を撫でる。
「おままごとだって、お人形遊びだって好きなことをしていても、ちっともおかしくないし
可愛い着物を着たっていいんだよ
この前やって来たハンターだって、可愛らしい恰好をしていただろう」
彼は少女に刺さったとげを抜くように、一つ一つ諭していく。そんなことはない、大丈夫だと。
首に回った腕が緩んで、涙を浮かべた少女がウツシを見る。
「ほんとう?」
「勿論、本当だよ
俺だっていい年して、モンスターの物まねやお面を作っているだろう?
愛弟子は、それがおかしいって思う?」
「ううん、ちっとも」
「そう。だからね
ハンターだからって、諦める必要はないんだよ」