ウツシの愛弟子が死んだ。
　ヌシの残党率いる群に、カムラの里ではない何処かの村の子供を庇ってあっけなく死んだ。
「どうして……」
　あの英雄が死ぬ訳がない。皆が皆そう信じたかったのに、村の人間が持ってきた遺体で、現実を突きつけられた。モンスターにやられているが、随分と綺麗な――人ではない物と化した少女に、ヒノエとミノトが縋りついてわんわん泣いている。里全体が悲しみにくれる中で、ウツシだけは嫌に静かに少女の亡骸を見つめていたのだという。
　その日、彼女の遺体は忽然と姿を消した。

「ウツシ、本当にあの子の遺体を隠してないんでゲコな」
「勿論です……俺だってあの子の遺体が消えた事は、度し難い怒りを覚えています」
　無論、ウツシがやったなんて信じられないが、ゴコクと並ぶ程に可愛がっていたのはこの男だ。おまけにいつか番に迎え入れるつもりだったと聞いている。だから無いと思いつつ念のために確認をしたのだが、当然返ってきた返答は否のみ。こぶしを握り怒りに震える彼を見て、それ以上何も追及できず「疑ってすまない」と謝罪をいれた。

　それからだろう、ウツシの行動がどこか奇妙なものになったのは。里の仕事や後進の育成などは今まで通りこなすのだが、どこかへふらりといなくなる事が増えた。可愛がっていた少女がいなくなったのだから、仕方ないという声もあったが、それにしても何処か違和感があった。まるで何かを探しているような、そんな感じだ。と言ったのは誰だったのか。
　誰もが気づかないような、けれどどこかおかしいような、そんな些細なもの。けれど日に日にそれは歪んでいくのだ。

　やがて、里の英雄の灯火が消え、それを痛みとして心に残しながらも、誰もが前を向いていこうとした頃、ウツシの姿が忽然と消えた。書置きも何ものこされておらず、彼のオトモも何処にいくのかも知らないのだという。
「……」
「どう思うでゲコ」
「わかりませぬ……ただ、ウツシの様子がおかしかったのは事実……もしかしたら、後追い自殺など」
「ありえなくはないでゲコ……」
　だが、彼を追うのは難しいだろう。何しろ少女に狩りのイロハを叩き込んだ男であり、本人の実力もある。ウツシの様子を鑑みても、少女を追って死んでしまったなどありえるのだ。
　だから、ゴコクとフゲンは頭を抱える。彼まで失ってしまっては、それこそ里に影ができる。とはいえ、里に無理矢理連れ戻すのは……と思っていたところで思わぬ声があがった。
「もし、フゲン殿」
「カゲロウか……」
「某に伝手がございます。ウツシ殿を探す手立てにはなるやもしれませぬ」
「……わかった」
　もはや賭けだった。里を見限って出て行ってくれたのならばそれでいい。だが、せめて安否を確かめたいというフゲン達の意向にカゲロウは頷く。
「承知いたしました」
　心地よい美声が響き、札のような面を付けた男は巨大な荷車と共に里を出た。

　暫く伝手を頼り、小型モンスターを軽くいなしながらたどり着いたのは、大社跡などではない、雪が横殴りに振るような寒冷群島。
「もしや……」
　なんとなく。なんとなくだが嫌な予感だけがひしひしと沸いて出て、ポポと荷車を道中共にしてくれたアイルーに任せ道なき道を歩いていく。朽ちた船の中にも、洞窟にもおらず、ではまた別の場所なのだろうか。と思ったところで上を見た。
　そびえたつ巨大な岩。その上のほうにくぼみのようなものが……。

「……」
　長年の勘だろう。嫌な予感だけがしてカゲロウはそのくぼみを目指して登る。ハンターを辞めてからここまで身体を動かした事はなかったのだが、案外覚えているらしい。必死に登り切ってみれば、暗がりの中から金の瞳が見えた。
「あぁ……」
　ゆらりと幽鬼のように動くのは、探していたその人。だが、目に生気はなく、淡々と物事をこなす人形のようにも見えてしまった。
「なんだ、案外早かったな」
　ハツラツとした言葉でない、感情の一切をそぎ落としたような声。