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    ChukanabeMH

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    ChukanabeMH

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    ウハ♀の妖怪退治的な某の途中なやつ。

     何の変哲もない、いつもの校舎。自分よりも派手な子たちは誰が付き合っているだの、そういう話ばかり。くだらない、と思ったのは自分がそういう話に縁がないからか。もっとましな会話をしろよ、だなんて。大きくため息をついて、見えるのはいつもの通学路。
     アスファルトの地面と、地面から均等に生えた電柱と、住宅街。何も変わらないし、変化はない。

     ただ、季節外れの生暖かい風だけが頬を撫でた気がした。

    「編入生が来たぞ」
     そんな中、教壇に立った教師がHRでそう告げてきた。高校にもなってそんなことがあるのかと疑問だったのだが、実際にいるらしい。漫画のような出来事に教室がにわかに騒がしくなって、スクールカースト上位の男子生徒は「女子ですか?」という質問をしてきた。
    「あぁ、女子だな
     入っていいぞ」
     「おお」だとか「まじ?」だとかそんな言葉が耳朶に響いて、白い引き戸が開かれて、リノリウムの床から一歩教室という境界線に誰かが足を踏み入れてきた。
     背筋がぴんと伸びていて、背は平均的にみても少し大きい。綺麗に切りそろえられた短い黒髪と、力強そうな瞳が特徴的な少女だった。
    「はじめまして」
     凛とした声が教室に響き渡り、少女は自分の名前を告げる。そのあと教師から席を指示されて着席した。
     別段特に変化もないHRが終わった途端、少女はあっという間に数名の生徒に囲まれていた。そりゃ、こんな変な時期にやって来たのであれば誰でも気になるだろう。けれど、彼女は困ったように笑ってごまかすだけだった。そうなれば噂好きの生徒は興味を失うし、男子生徒も脈なしとあればさっさと席に戻っていく。残ったのは純粋に仲良くしたい人間だったのだろうが、少女はまた困ったような表情を見せて、案内すら断っていた。

     ――お高くまとまりやがって。

     そう思ったのは間違いではないはずだ。
     だからそんな視線に気づいたのか、少女はこちらを見てわずかに表情を曇らせた気がした。


     変化がある一日というのは総じて何か起きるらしい。
     化学を担当していた教師が産休に入ったため、代打で講師がやってきたらしい。以前の女性の教師と異なり今度は男性だった。ぼさぼさの黒髪と、瓶底みたいに分厚いレンズの眼鏡をかけている。背は高いし、わざと崩した見てくれでもわかるほど顔が整っていた。それと同時に感じる威圧感。
    「代打で来ました。ウツシと言います!
     みんな宜しくね!」
     けれど、声はどこまでも爽やかで、生徒からの質問もある程度受け答えはしている。女子生徒に至っては、彼の整ったパーツに見惚れている者もいた。おそらくバレンタインとかは狙われるだろう。教師と生徒の恋愛を望むというよりも、憧れのアイドルにチョコレートを渡すような感覚だ。
    「いやぁー、先生から引継ぎは受けているんだけど、やっぱりわからないからね。今日はみんなの学力が知りたいから、そんな訳で小テストします」
     ええーというブーイングが発生し、ウツシと名乗った教師は苦笑しながらプリントを配っていく。見れば、直近まで授業で出ていた内容で、予習復習をしっかりしていれば解けるような内容だった。記載を終えて、プリントをひっくり返すとふと教壇に立っているウツシと目が合う。分厚い眼鏡のレンズ越しに、ぎらぎらと光る狼のような瞳がそこにはあった。

    「やっぱり、あれわざとだよね」
    「何が?」
    「うーちゃん先生! わざわざだっさい恰好してんでしょ?」
    「あー……彼女とか奥さんいるとか?」
    「でも、未婚だってさ」
    「えー、じゃあいけるかな?」
    「やめろよー、アンタが言っても玉砕だって」
     授業が終わり、下世話な会話が耳に入る。げらげら笑って猿のように手を叩いていたところで、女子生徒の一人が件の編入生に話題を振って来た。
    「で、アンタはどう思う?」
     どうせ困ってしまえという浅はかな考えだったのだろうが、編入生は少し首を傾げて考えるそぶりを見せたあと口を開く。
    「うーん……あの格好はわざとだと思うし、私もどうかと思う」
    「だよねー!!」
     意外と普通に受け答えした編入生は、女子生徒に相槌を打って、さらに続ける。
    「今朝職員室で会ったんだけど、なんというか……残念な人だったよ。顔はいいんだけどね
     大声であいさつしながら職員室に入って、校長先生に叱られてた」
    「なにそれ、うける」
     げらげらを大口を開けて笑う女子生徒に、静かに微笑んでから編入生は立ち上がった。
    「あぁ、そうだ
     後でLINE交換せん?」
    「ん、いいよー」
     そのままひらひらと手を振って、彼女は教室から出ていった。そうなれば女子生徒の話題はおのずと彼女に変わるだろう。
    「なんつーか、思ったより不思議ちゃん?」
    「えー、よーわかんね、ただ普通って感じ」
    「なにそれ」
     まるで連想ゲームのように、結局教室のカースト上位である女子生徒たちは、時間めいいっぱいまで話していた。

     ――くだらない。

     そう思ったのは、自分があの編入生と会話できなかったからなのか、それとも――

     そうして、一週間ほどすぎれば非日常というのは日常に変わっていく。ウツシと言う科学の教師は、見た目に反し厳しく、だがわかりやすい授業をしていたし、編入生は誰ともあまりつるまないが、話を振られれば話題に合った受け答え、別の話題を提供するような、そんな居たら嬉しいようなポジションに収まっていた。
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