第一回チキチキペイントボール合戦「第一回、合同ペイントボール投げ合戦を開催する!!」
ティガレックスもかくやという咆哮にも似た声が、カムラの修練所に響き渡った。びりびりと耳を刺激する音に、ジェイは思わず耳をふさぐが、目の前に立つ二人は慣れているのかケロリとしたまま。
声を発した張本人ことフゲンはさして気にせず、そのまま進行する。
「カムラ代表! ウツシ及び、ヤコ
エルカド代表! アルロー殿及び、ジェイ!」
それぞれの選手が呼ばれ、少人数ながらも歓声が大きくなる。ぺこりとお辞儀した少女に、ジェイの心臓が思わずはねた。
いつだったかわからない、けれどいつの間にかあの猛き焔に魅入られていたのだ。絶世の美女ではないが、愛らしい顔立ち。それでいて猛き焔に相応しい、古龍相手に一歩も引かぬ戦い方。隣で見ているうちに「綺麗だ」と思ってしまったのである。
だが、そんな彼の青春をかき消すかのようにフゲンがルールを告げていく。
「ルールは持っているペイントボールを投げ合い、相手に当たった数を自分の点数とする
最終的に多いチームが勝ちだ」
要は、雪合戦のペイントボール版というやつだ。かつてハンターたちの間で重要視されていたペイントボールは、時代の流れと共に廃れ、今では無用の長物と化している。
故に――
「いやはや、此度の企画は在庫が履けて一石二鳥ですな」
「まったくです」
「おい、商人ども」
ジェイのツッコミもなんのその。仮設の観客席で茶を飲むカゲロウとオボロは、嬉しそうな声で語り合っている。
商人たるもの機を逃してはいけないのだが、常に需要があると思っていたものが無くなったのだ。抱えていた在庫も金を貰ったうえで履けているので、彼らとしては棚からうさ団子である。
「なお、武器はペイントボールのみだが、その他道具の使用は許可する
これは遊びではなく、訓練と捉えろ」
と、ガレアスの言葉を聞いた途端、背筋が凍り付いた。赤毛の脳筋青年はうっかり見てしまったのである。
彼が絶賛片思い中の少女の師が、絶対零度の瞳でこちらを見ている事に。
普段のウツシは温厚かつ残念な男前と評される人間だというのに、今の彼は獲物を狩る雷狼竜のごとき閃光を放っているかのようだ。ぞわりと嫌な汗が垂れるが、少女の呼びかけにその殺気も霧散する。
「ジェイよ、とんでもねーのに目をつけられたな」
「ありゃ、巣を護る雄だ。気張れよ」とカラカラ笑うアルローに何も言い返せず、この後始まるであろう惨事に、思わず涙目になるのであった。